№276 意図した振り返りが成長を速めるとされています。
私たちはいつも振り返る中で気づき、学び、次にとるべき行動を選択しています。
早く会社に行くことで、その日一日が気持ちよく過ごせた。その経験から1時間前に出社することが習慣になった。電車が遅れて顧客との商談に遅刻した。その経験をきっかけに30分の時間に余裕を持たせたスケジュールを組むようになった。
私たちは振り返ることで成長しています。
私たちは日常の生活や仕事において、うまくいったことから学び、うまくいかなかったことからは、次から失敗をしないように学びます。普段の経験から学習し、よりよく生きるために成長を重ねています。
振り返りを意識的にすることで成長がより効果的になることが知られています。
私たちは普段から意識して振り返りをしているわけではありません。しかし、意図的に振り返りをすればどうでしょうか。腹筋を鍛える時、ただ体を起こすということではなく、トレーニングの時に腹直筋、腹斜筋、腹横筋を鍛えるなど、部位を意識することが効果的なトレーニングになるという話があります。振り返る時も、何について振り返るのか、何のために振り返るのかなど意識をすることでより深い学びや成長につながります。
ここでは、意図的な振り返りのためのフレームワークを紹介します。
1.KPT(振り返りで問題解決、対策の実行につなげる)
KPTは最もポピュラーなフレームワークとして広く使われています。
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- K(Keep:継続すること)
- P(Problem:問題点、改善すること)
- T(Try:打ち手、次にやってみること)
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仕事やプロジェクトにおいて、問題解決や改善のための振り返りに適したフレームワークです。
(1) Keep(継続することは?)
現状あるいは実行したことからこれからも継続することを考えます。継続することには、やっていてうまくいたこと、成功したことなどがあります。
それらがなぜうまくいったのかも考えてみます。考えを深めることで、継続的に成功するコツが手に入ることでしょう。例えば、「納期の前倒しに間に合った」という事象に対して「あらかじめ部品の在庫を確保できていた」さらには「担当者が前年の受注傾向を見て受注増を予測していた」のように成功要因を深掘りしていきます。
(2) Problem(どんな問題が起こったか? 改善が必要なことは?)
やってみたけれどもうまくいかなかったこと、改善する点を考えます。
問題事象だけでなく、なぜうまくいかなかったのかの原因について考えること大切です。例えば、「生産が間に合わずお客様への納期に間に合わなかった」という問題点に対して「営業と受注情報の共有ができていなかった」「受注変更の連絡ルールがはっきりと決まっていなかった」のようにうまくいかなかった原因を掘り下げていきます。
原因追究には悪者探しにならないように注意が必要です。
納期に間に合わなかったのは、部品仕入れ担当者Aさんの勘違いのせい、といった責任の押しつけになるとその後の改善につながらないことがあります。原因追究では、問題が起こっているしくみやプロセスに目を向けることが大切です。正しい打ち手の検討のためにも他者批判は厳禁です。原因を考えることで、次の確実な打ち手につながります。
(3) Try(新しく試すことは何ですか? 次の一手は何ですか?)
これまでのKeepとProblemを踏まえて、次の打ち手(対策)を考えます。
対策は具体的な行動にまで落とし込むのがポイントです。「次は間違えないようにする」といった意識レベルではなく行動レベルで考えます。例えば、間違えないためのチェックリストをつくって作業後に上司に確認印をもらうなど、具体的な行動で表現すると良いでしょう。
また、Tryとあるようにまずやってみるという姿勢で取り組むのがお勧めです。仮説検証のサイクルとしてKPTを回していくとより改善が進むことになります。
(4) KPTのまとめ
現状あるいは試行錯誤の過程で、継続すること、改善することの視点で整理・分析し、次の打ち手を考えるフレームワークです。
業務の工程ごと、課題ごとに振り返っても良いですし、プロジェクトのステージやフェーズごとに区切って、計画的に振り返ってみるとよいでしょう。
日々の仕事において目の前で起こっていることを常にKPTの視点で振り返ることが問題意識を持つということにつながります。
2.YWT(経験から学び、次のアクションに踏み出す)
YWTは経験から学ぶという考え方にもとづいており、KPTと似たフレームワークです。
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- 1.Y:やったこと
- 2.W:わかったこと
- 3.T:次にやること
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KPTとの違いは、KPTが、主として業務改善の仮説検証プロセスという色合いが濃いのに対して、YWTは個人やチームの学習と成長に向けた考えやすいフレームワークです。
(1) Y(やったことは?)
やったこと、そこで起こったことについて整理します。
事実を言語化して可視化することになります。
時系列的に書き出してみることもよいでしょう。
(2) W(わかったことは?)
Y(やったこと)から、気づいたことや学んだことについて考えます。
なるほど納得したこと、教訓に思ったこと、強く心が動いたことなど、感情面を含めて心の中での出来事も探ってみましょう。成長のヒントが隠されているかもしれません。
Y(やったこと)が自分(自分たち)にとってどんな意味があるのかを考えます。
(3) T(つぎにやることは?)
Y(やったこと)W(わかったこと)を踏まえて次に何をやるのか、どのように活かすのかを考えます。
できるだけ具体的な行動レベルの表現がよいでしょう。
ノウハウやコツといった学びを定着させます。
(4) YWTのまとめ
出来事、経験したことを整理して内省し、そこから得られた学びを次の行動につなげるフレームワークです。
YWTは1日単位の振り返りとして、日記のフレームワークとして利用することもお勧めです。
3.ORID(成長する力を高める)
ORIDは世界で広く使われている内省のフレームワークです。
KPTやYWTと流れは似ていますが、感情や周囲への影響に対してしっかり振り返ることができるツールです。
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- O(Objective Question:客観的事実)
- R(Reflective Question:反応・感情)
- I(Interpretative Question:解釈・意味)
- D(Decision Question:意思決定)
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より精緻に振り返ることで個人やチームの振り返る力・成長力が高まります。
4つの問いから構成されます。
(1) Objective Question:客観的事実
「何がありましたか?」「どんな行動をとりましたか?」
客観的事実についての問いに対して考えます。見たこと、聞いたこと、感じたこと、行動したこと、起こったことについての問いに取り組みます。
YWTのYに相当する部分です。
(2) Reflective Question:反応・感情
「どんな影響がありましたか?」「その時のどのように感じましたか?」
YWTのYに相当する部分ですが、より深く、その事実が及ぼした影響、周囲の反応、何がどう変わったのかについて考えます。
場の雰囲気がどのように変化したのか、場にいる人たちの関係性に変化はどうだったのかについても振り返ります。
また、自他の感情がどのように関わったのか、心の動きにも着目します。
Reflectionとはもともと反射、反映、反響の意味です。鏡に映る自分の像を客観的に見ることから振り返り・内省の意味に転じています。
(3) Interpretative Question:解釈・意味
「そのことをどのように捉えていますか?」「そこから何を学びましたか?」
OとRの問いで整理した事象から“見えてきたもの”“言えること”について考えます。それはあなたにとってどんな意味を持つのか、そこからの学んだことは何なのかについて言語化します
また、なぜそこに注目したか、なぜそのように見えたのか、自分の掛けている眼鏡(価値観)について考えるとより内省が深まります。
Iのパートは、課題の本質を読み解く最も重要なパートになります。
(4) Decision Question:意思決定
「その経験をどのように活かしますか?」「何を変え、どのように行動しますか?」
経験からの気づきと学びをいかに実践に移すかの意思決定をします。ずばり何をするのかを決めます。
YWTのTと同様、実践のための一歩を踏み出すにはより具体的な行動レベルの表現にまで落とし込むことが望ましいです。
(5) ORIDまとめ
ORIDによる振り返りは、感情といった人間的側面に対しても明示的にスポットライトをあてます。
事実を私(私たち)にとっての経験にまで掘り下げ、経験の意味を問う、より深く内省を促すフレームワークです。
深く精緻な内省は私たちの成長する力を高めます。
3つの振り返りフレームワークのまとめ
振り返りのための3つのフレームワークを紹介しました。
KPTは業務改善の振り返り、YWTは出来事や経験についての振り返りで使いやすいフレームワークになっています。ORIDは深い内省を促すツールとして役立ちます。これらは、時と場面によって使い分けるとよいでしょう。
これらは複数メンバーでの振り返りにも有用です。
職場やプロジェクトなどのチーム活動での振り返りにも使えますし、研修での振り返りにも使えます。ひとりひとりの振り返りをメンバーでシェアすることは特にお勧めです。メンバーがそれぞれ何を見て、何を感じたのかをシェアすることで、多くの視座、視点が得られ、メンバーのさらなる成長を促すことになります。
また、知の共有はチームの組織力の向上にもつながります。
振り返る時はポジティブさを失わないようにしましょう。
わたしは「反省」という言葉はあまり好きではありません。反省という言葉には、悪いことをした、悔い改めるといったネガティブな意味が込められているように感じるからです。ネガティブな感情は、次へのバネになるということもありますが、諦めや次の行動を遅らせてしまうリスクを伴うこともあります。振り返るたびにネガティブな感情になると次に立ち上がろうとする時に大きなエネルギーが必要になってしまいます。
わたしは「反省」と言う言葉は使わず、単純に「振り返り」と言う言葉を使います。振り返る時には、うまくいったところについては、強みを確認して自信を深めます。うまくいかなかったところについては、学習と成長のチャンスだと解釈し、ポジティブに捉えるようにしています。
また、複数のメンバーで振り返りをする時は、メンバーに対するフィードバックは、ダメ出し表現ではなく、ポジティブさを促す言葉に変えてフィードバックするように心がけています。
振り返りによって価値観をアップデートします。
世の中の変化に対して、私たちはそれほど意識することなく対応(反応)しています。意識することなく対応(反応)できているのは、過去の経験からのものの見方、行動パターンができあがっているからです。
世の中の変化が速すぎると対応(反応)による成功確率は低くなります。成功確率を上げてより良く生きるためには、対応を反応から適応に変える必要があります。
そのために振り返りが有効です。振り返りは、体験を意識に上らせて内省することで、モノの見方、行動パターンをアップデートすることです。
生き抜くツールとして、これらのフレームワークを利用しない手はないのではないでしょうか。