“選ばれるキャリア”は自ら創る ~パーソナルブランディングという視点~

キャリアは「評価される力」で決まる時代

「私はこれができます」「こういう経験があります」と語っても、それが必ずしも他者に伝わるとは限りません。
現代のキャリアにおいては、「何ができるか」よりも、「誰にどう評価されるか」がますます重要になっています。

転職、副業、フリーランス、越境キャリアといった働き方の多様化により、私たちは常に“選ばれる立場”にあります。
選ばれるとは、他者から「あなたに頼みたい」「一緒に仕事をしたい」と思ってもらうこと。
そのためには、自分の価値を“言語化し”“信頼され”“再び思い出される”必要があります。

それを実現する鍵が、「パーソナルブランディング(自己ブランディング)」です。

ブランドは「価値と信頼」の記憶

「ブランド」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?
GUCCI、Apple、ユニクロ……どれも「思い出される強さ」を持つ名前です。

ブランドとは単なる“名称”ではありません。
マーケティングの観点から見れば、それは「選ばれる理由の集合体」であり、「期待と約束の記号」です。

個人においても同様です。
「あの人に相談すれば安心」「あの人に任せれば間違いない」という記憶の蓄積こそ、パーソナルブランドなのです。

ここで重要なのは、「強み」と「売り」は違う、という視点です。
自分の“強み”が、他者にとって“価値”として伝わるとは限らないからです。
TOEIC800点は一般的には強みに見えますが、外資系企業の中では標準以下かもしれません。
つまり、「強み」は文脈によって「売り」になったり、ならなかったりするのです。

キャリアは「偶然」と「価値の再発見」の物語

スタンフォード大学のクランボルツ教授は「計画された偶発性理論(Planned Happenstance)」を提唱しました。
人のキャリアの8割は、偶然の出会いや予期せぬ出来事で形成されるという考え方です。

たとえば、ある営業職の女性が出張先で偶然参加したセミナーをきっかけに、自社のインバウンド向け施策を立案し、新規プロジェクトの責任者になったという例があります。
このように、偶然をチャンスに変えるには、「この人に頼みたい」と思わせる“何か”を日頃から育てておく必要があります。

マーク・サビカスの「キャリア構築理論(Career Construction Theory)」も参考になります。
サビカスは、「キャリアは自己概念を社会に実現するプロセスであり、物語である」と主張します。

ここで言う「物語」とは、単に経験を並べることではありません。
「自分にとってどんな意味がある経験だったのか」「どんな価値観がそこにあったのか」を語れることです。

つまり、キャリアとは、過去の出来事に自分なりの“意味づけ”を与え、他者に伝えることで、その人らしさが浮かび上がる営みなのです。

 

意味をつくるとは、「価値を再発見する力」

ここでいう“意味”とは、出来事のなかに自分がどんな価値や教訓、可能性を見いだしたのか、という主観的な気づきのことです。
同じ経験でも、「ただの業務」と思う人と、「自分の成長を支えた挑戦」と感じる人では、まったく違う語りが生まれます。

このように、キャリアは「過去の事実をどう受け止め、どう活かすか」という捉え直しの連続です。

ブランドとは、スキルの羅列ではなく、自分自身の物語のなかにある“意味の結晶”です。
そしてその意味は、他者との対話のなかでより深まっていきます。
たとえば、周囲から「あなたって◯◯の時に頼りになるよね」と言われたとき、自分でも気づいていなかった価値が浮かび上がることがあります。

キャリアは自分自身を見つめるだけでなく、他者との対話を通して形づくられていくものです。

 結びに:あなたは誰に、何を届けたいのか

ここで一つ、あなたに問いかけてみたいと思います。

・あなたが“自然体で活躍している”と感じられるのは、どんな場面ですか?
・そのとき、誰に、どんな価値を届けていますか?
・そして、その価値は、どのように相手に伝わっていると感じますか?

パーソナルブランディングとは、あなたが「誰に、どんなかたちで思い出されたいか」を育てていく営みです。
それはキャリアを「内省」だけでなく「他者との対話」のなかで見つめ直す旅でもあります。
あなたがこれまでの経験にどんな価値を見出し、どんな未来に選ばれたいのか――。
その問いへの対話が、選ばれるキャリアの第一歩になるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

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西口満

「気づきによる学び、自ら成長する」を支援し、ひとりひとりのウェルビーイングの実現と生産性の高い職場のチームづくりを行い、企業や社会の発展に貢献する

ビジネスリーダー育成コーチ、
人事戦略のコンサルティングをしています。

プロフェッショナルとして「人の成長」に関わり続けることをライフワークとし、少しでも誰かの成長のお役に立てれば幸いです。

ブログでは、そんな私が学んだこと、気づいたこと、感じたことを発信し、誰かの、何か、前進のヒントになればと思っています。

これからも情報を発信し続けます。

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