Z世代と向き合うリテンション戦略 ~管理職が築く信頼と対話の技法~

Z世代と職場に広がる「見えない壁」

「最近の若手はすぐに辞めてしまう」──これは多くの管理職が感じている悩みの一つです。特にZ世代と呼ばれる若手社員に対して、どう接してよいか分からないという声を頻繁に耳にします。

Z世代との間に感じる「見えない壁」とは何か。それは、世代間の価値観の違い、コミュニケーションの常識のズレ、対話の距離感といった、言葉にしづらい“感覚の隔たり”です。 たとえば、指導のつもりで声をかけた言葉が「圧」と受け止められたり、良かれと思って誘った飲み会を「プライベートを侵害された」と感じられてしまうケースもあります。

かつては、飲みにケーションや上下関係のなかで自然と関係を築いていた管理職世代にとって、言葉を慎重に選ばねばならない今の時代は、「どう接すれば良いか分からない」という不安がつきまといます。ましてや、意図せぬ一言がパワハラと受け取られるリスクもある。そんな状況で、若手とどうコミュニケーションを取れば良いのか、分からなくなっている管理職は少なくありません。

この“見えない壁”を壊す鍵は、「信頼」をどう築くかにあります。

リテンション対策の本質とは
~辞めさせないのではなく「ここにいたい」と思わせる~

離職を防ぐためには、「退職させないこと」以上に、「ここで働き続けたい」と思わせる職場環境と関係性の構築が必要です。そこで鍵になるのが、部下の「内的欲求」にアプローチするコミュニケーションです。

リテンションに関して私が提案するのは、「存在欲求」「貢献欲求」「成長欲求」という3つの基本欲求に応えるアプローチです。この3つは、Z世代だけに限らず、あらゆる人の内側にある動機づけの源泉です。

  • 存在欲求:自分という存在を認められたい、見てもらいたい、気にかけてもらいたい
  • 貢献欲求:自分が誰かや組織の役に立っていると実感したい
  • 成長欲求:自分が前に進んでいる、学んでいる、スキルを伸ばしていると感じたい

この3つに応えることができれば、若手社員は「ここに自分の居場所がある」と感じられ、離職を選びにくくなります。

Z世代との関係づくり──3つの欲求を満たす対話のコツ

では、どうすればこの3つの欲求をコミュニケーションの中で満たすことができるのでしょうか。

(1)存在欲求に応える:認知と承認の積み重ね

Z世代の多くは、上司との物理的な距離だけでなく、心理的距離を非常に敏感に感じ取ります。だからこそ、まずは「見ているよ」「気にしているよ」という小さなサインが大切です。

たとえば:

  • 朝の挨拶に一言プラスして「昨日の資料、わかりやすかったね」
  • 忙しい日でも「今日はどうだった?」と声をかける
  • 定期的な1on1の場を設けて、仕事以外の話も聞く

こうした行為が、存在を認めることに繋がります。承認は、成果に対してだけでなく、過程や姿勢、存在そのものに対しても行うことが重要です。

(2)貢献欲求に応える:役割と影響を見せる

自分が「組織にとって必要な存在だ」と感じると、人はその組織に対して主体的になります。そのためには、若手が取り組んでいる仕事の先にある「影響」や「意義」を伝えることが効果的です。

たとえば:

  • 「このデータ集計があるから、営業がスムーズに動けているよ」
  • 「このミスを未然に防いでくれたおかげで助かったよ」

といったように、業務がどう貢献しているかを“言葉にして伝える”ことが重要です。

(3)成長欲求に応える:対話によるフィードバックと支援

Z世代は、画一的なキャリアではなく、「自分らしい成長」に関心を持っています。「育てられる」よりも「共に考えてもらう」関係性を求めている傾向があります。

具体的には:

  • フィードバックをする際に「あなたは今、どこを伸ばしたいと感じてる?」と問いかける
  • 「次に挑戦したいことある?」と可能性を探る
  • 成長の軌跡を一緒に確認する

上司が“育てる人”ではなく“伴走する人”になることで、成長欲求は満たされていきます。

恐れるのではなく、関わる──信頼は対話の中に生まれる

「何を言ってもパワハラと言われそうで怖い」──そう感じる管理職は少なくありません。 しかし、だからこそ“正解を語る”のではなく、“問いを立てる”ことが今の時代には求められます。

部下の話を聴く、存在に気づく、共に考える。 その積み重ねが信頼となり、信頼が定着意欲に変わっていきます。

リテンションとは、若手を引き留めることではありません。 彼らが「ここにいたい」と思える関係と環境を整えることです。

Z世代に限らず、あらゆる部下にとって、上司の一言、態度、問いかけが「私はここで大切にされている」と実感させるスイッチになります。

恐れず、誠実に、対話を重ねていきましょう。 その対話のひとつひとつが、信頼という「辞めにくさ」ではなく、「ここに居たい理由」へと変わっていくのです。

最後に

ここからは、読者であるあなた自身への問いかけです。以下の問いを通じて、ご自身の職場や関係づくりを見直してみてください。

  1. あなたの職場は、部下にとってどんな「居場所」になっていますか?
  2. 部下が今、そのように感じている理由は何だと思いますか?
  3. あなたは、部下が「ここで働き続けたい」と思える環境づくりのために、何から始めますか?
  4. あなた自身は、上司としてどんな存在でありたいですか?
  5. 今週一つ、部下の「存在」「貢献」「成長」のいずれかを承認する行動を起こすとしたら、どんな場面があるでしょうか?

問いは、内省の扉を開き、行動の一歩を促します。あなたの一つの問いかけが、誰かの働く意味を支えるきっかけになるかもしれません。

 

※3つの欲求は、マズローの「所属と愛の欲求」および、デシとライアンによる「自己決定理論(Self-Determination Theory)」に基づいています[マズロー, 1943;デシ&ライアン, 1985]

この記事を書いた人

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西口満

「気づきによる学び、自ら成長する」を支援し、ひとりひとりのウェルビーイングの実現と生産性の高い職場のチームづくりを行い、企業や社会の発展に貢献する

ビジネスリーダー育成コーチ、
人事戦略のコンサルティングをしています。

プロフェッショナルとして「人の成長」に関わり続けることをライフワークとし、少しでも誰かの成長のお役に立てれば幸いです。

ブログでは、そんな私が学んだこと、気づいたこと、感じたことを発信し、誰かの、何か、前進のヒントになればと思っています。

これからも情報を発信し続けます。

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