やる気が生まれないとき
職場での1on1面談やキャリア相談の場では、「やる気」や「モチベーション」という言葉が頻繁に登場します。
「やる気が見えない」
「モチベーションが低い」
「どうすればやる気が上がるのか」
こうした言葉は、日常的に使われており、多くの場合、特別な違和感なく受け止められています。
こうした言い方の背後には、モチベーションについてのある共通した理解があります。
それは、モチベーションを個人の内側にあるものとして捉える見方です。
やる気があるか、ないか。
足りているか、足りていないか。
このように、モチベーションは、量のようなものとして扱われることが少なくありません。
また、「やる気を引き出す」という表現もよく使われます。
この場合、やる気はもともと個人の内側に存在していて、それがまだ表に現れていないだけだという理解が前提になります。
さらに、「モチベーションを高める」という言い方もあります。
ここでは、努力や働きかけによって、やる気の水準を上げることができるという考え方が含まれています。
このように整理すると、モチベーションは、
個人の内側にあるもの
量として増減するもの
努力によって高めることができるものとして理解されていることになります。
こうした理解は、日常的にも広く共有されており、実務の場でも違和感なく使われています。
しかし、実際の職場の場面を振り返ると、少し違った様子も見えてきます。
同じ人でも、ある仕事では意欲的に取り組み、別の仕事ではそうではないことがあります。
関わる上司やチームによって、やる気が生まれることもあれば、逆に失われることもあります。
また、仕事の意味が見えてきたときに、自然と前向きに取り組めるようになることもあります。
こうした経験は、多くの人が思い当たるのではないでしょうか。
もしモチベーションが個人の内側にある固定的なエネルギーのようなものであれば、このような変化は説明しにくくなります。
むしろ、モチベーションは、仕事の内容や周囲との関係、置かれた状況の中で変化し、時には自然に生まれてくるものとして捉えることもできるのではないでしょうか。
では、実際に私たちが「やる気が出た」と感じるとき、そこでは何が起こっているのでしょうか。
この点について、日常の経験をもとに考えてみたいと思います。
意味が見えてくるとき、やる気は生まれる
例えば、仕事にいきいきと取り組めているときがあります。
新しいプロジェクトに挑戦したいと思ったときがあります。
仲間と一緒に仕事をしているときに、自然と前向きな気持ちが生まれることもあります。
こうしたとき、私たちは「やる気が出ている」「モチベーションが高い」と表現します。
では、そのとき、私たちの内面では何が起こっているのでしょうか。
その体験を振り返ってみると、ある共通点が見えてきます。
それは、仕事や関わっている人に対して、自分にとっての意味が見えてきたときです。
この仕事に取り組むことで、自分が成長できそうだと感じたとき。
このプロジェクトが、自分にとって価値あるものだと思えたとき。
仲間と一緒に取り組むことに、喜びや手応えを感じたとき。
このようなとき、私たちは自然と前向きな気持ちになり、仕事に向かっていきます。
逆に、この仕事に意味を見いだせないとき、あるいは自分にとって負担や不安ばかりが感じられるときには、意欲は低下します。
つまり、モチベーションは、単に「内側のエネルギー」が増えたり減ったりしているのではなく、
仕事や人との関係の中で、自分にとっての意味がどのように見えているかによって変化しているように見えます。
しかも、その意味は、意図的に作り出すというよりも、自然に意識の中に立ち現れてくるものです。
例えば、花を見たときに「きれいだ」と感じることがあります。
そのとき、私たちは「きれいだと思おう」と努力しているわけではありません。
気づいたときには、すでに「きれいだ」と感じています。
モチベーションも、これと似た側面を持っているのではないでしょうか。
仕事や人との関係の中で、自分にとっての意味が見えてきたとき、
私たちは自然と前向きな気持ちになり、行動へと向かっていきます。
このように考えると、モチベーションとは、個人の内側にある固定的なエネルギーというよりも、
仕事や人との関係の中で意味が立ち現れてくることによって生まれる経験として理解することができるのではないでしょうか。
自己決定理論から考えるモチベーション
では、このようにモチベーションが生まれる状況には、どのような共通した特徴があるのでしょうか。
この点について示唆を与えているのが、自己決定理論です。
自己決定理論は、エドワード・L・デシ(1942 – ) と
リチャード・ライアン(1953 -) によって提唱された動機づけに関する理論です。
この理論では、人が意欲的に行動するときには、三つの心理的要素が満たされているとされています。
それは、
・有能感(Competence):自分にできる、成長できているという感覚
・自律性(Autonomy):自分で選んでいるという感覚
・関係性(Relatedness):他者とのつながりや承認の感覚の三つです。
この三つの要素は、先ほど見てきた「意味が見えてくる体験」とも深く関わっています。
例えば、有能感です。
このプロジェクトに取り組むことで、自分が成長できそうだと感じたとき、
あるいは、自分の力が発揮できそうだと感じたとき、
仕事は自分にとって意味あるものとして立ち現れてきます。
そのとき、自然と「やってみたい」という気持ちが生まれます。
次に、関係性です。
仲間と一緒に取り組むことに喜びを感じたり、
上司や同僚との信頼関係の中で仕事に向き合えたりするとき、
仕事は単なる業務ではなく、人との関係の中で意味あるものとして感じられます。
このようなとき、モチベーションは自然と高まります。
そして、自律性です。
自分の意思で選択し、自分の判断で取り組んでいると感じられるとき、
仕事は自分自身のものとして意味を持ち始めます。
このように、自己決定理論の三つの要素は、
仕事や他者との関係の中で意味が見えてくる条件を示しているとも言えます。
つまり、モチベーションとは、内側のエネルギーを高めることによって生まれるというよりも、
仕事や人との関係の中で意味が立ち現れてくることによって生まれるものと考えることができるのです。
このように考えると、モチベーションに対する支援のあり方も変わってきます。
例えば、1on1の場面を考えてみましょう。
モチベーションを内側の固定的なエネルギーとして捉える場合、
次のような対話になりがちです。
「最近、やる気が見えないけど、どうしたの?」
「もっと積極的に取り組んでほしい」
「気持ちを切り替えて頑張ろう」
ここでは、やる気は個人の内部の問題として扱われています。
そのため、対話は「やる気を引き出す」「やる気を高める」方向へ向かいます。
一方、モチベーションを意味の立ち現れとして捉える場合、対話は変わってきます。
「このプロジェクトの中で、どんなことに興味を感じている?」
「この仕事を通して、どんな成長ができそうだと思う?」
「チームの中で、どんな役割を担えそう?」
このような問いは、やる気を引き出そうとしているのではありません。
仕事や関係の中で意味が見えてくることを支援する問いです。
このような対話の中で、本人にとっての意味が見えてきたとき、
モチベーションは自然と生まれてきます。
つまり、モチベーションを高めることを直接の目的にするのではなく、
意味が見えてくる場をつくることが、結果としてモチベーションを生み出すことにつながるのです。
意味が見えてくる場をつくる
私たちはこれまで、モチベーションを個人の内側にあるものとして捉えがちでした。
やる気があるか、ないか。
高いか、低いか。
しかし、実際の経験を振り返ると、
モチベーションは、仕事や人との関係の中で生まれ、変化していることが見えてきます。
仕事に意味が見えてきたとき、
仲間との関係の中で手応えを感じたとき、
自分の成長の可能性を感じたとき、
私たちは自然と前向きな気持ちになり、行動へと向かいます。
モチベーションは、努力によって無理に高めるものというよりも、
意味が立ち現れてくる中で自然に生まれるものなのかもしれません。
そう考えると、支援のあり方も変わってきます。
やる気を高めようとするのではなく、
意味が見えてくる場をつくること。
仕事と人、人と人の関係の中で、
本人にとっての意味が見えてくるような対話を重ねること。
そのような関わりの中で、
モチベーションは自然と生まれ、
人は前に進んでいくのではないでしょうか。
モチベーションを「個人の内側の問題」としてではなく、
「関係の場の中で生まれるもの」として捉える。
この視点は、1on1やキャリア支援のあり方に、新しいヒントを与えてくれるように思います。
【問いかけ:あなたへの振り返り】
・ 最近、やる気が出た仕事の場面を思い出してみてください。そのとき、何が起こっていましたか。
・ その場面では、「有能感」「関係性」「自律性」のうち、どの要素が満たされていたでしょうか。
参考文献(一般書)
- エドワード・L・デシ、リチャード・M・ライアン著
『人を伸ばす力―自己決定理論の実践』 新曜社, 2012年 - ダニエル・ピンク著
『モチベーション3.0 持続する「やる気」をいかに引き出すか』 講談社, 2010年
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