分かっているのに、動けない…
「やった方がいいことは分かってるのに、どうしても始められない」
「必要だと思っているのに、手がつかない」
こうした経験は、多くの人が持っているのではないでしょうか。
あるクライアントは、キャリアの幅を広げるために資格取得を目指すことにしました。
将来のキャリアについて考え、「今のうちにスキルを身につけたい」と語っていました。
参考書も購入し、勉強の計画も立てました。
「これで始められます」と、本人も前向きな様子でした。
ところが、次の面談で話を聞くと、まだ勉強を始めていないというのです。
「参考書は机の上に置いてあるんです。でも、なぜか手が伸びないんです」
やるべきことは分かっている。
方法も分かっている。
必要性も理解している。
それでも、動けない。
このようなことは、資格の勉強に限りません。
例えば、こんなケースもあります。
キャリアの方向性を見直そうと思いながら、なかなか振り返りの時間が取れない。
上司に相談しようと思っているのに、声をかけるタイミングを逃してしまう。
新しい仕事に挑戦したいと思いながら、つい今の業務に追われてしまう。
どれも、「やった方がいい」と分かっていることです。
それでも、なぜか行動に移せない。
このようなとき、私たちは「やる気が足りない」と考えがちです。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
もしかすると、やる気の問題ではなく、別の理由があるのかもしれません。
モチベーションは「意味づけ」から生まれる
モチベーションについては、「意味づけ」が重要だとよく言われます。
自分にとって価値があると感じたとき、人は自然と動き出します。
将来のキャリアにつながる、成長につながる、自分らしさにつながる。
こうした意味が見えてくると、やる気は自然に生まれてきます。
実際、キャリア支援の現場でも、意味が見えてきた瞬間に、表情が変わり、行動が始まることがあります。
例えば、「この経験が将来の目標につながる」と気づいたとき。
あるいは、「自分が大切にしている価値に気づいた」とき。
その瞬間に、これまで止まっていた行動が動き出すことがあります。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
意味があると分かっていても、動けないことがあるのはなぜでしょうか。
資格取得の事例でも、キャリアの幅を広げたいという意味はありました。
将来のために必要だという理解もありました。
それでも、行動にはつながらなかったのです。
意味があっても動けない理由
このようなとき、意味がないわけではありません。
むしろ、意味は十分に理解されています。
しかし、ここで重要なのは、意味には二つのレベルがあるということです。
ひとつは、「頭で理解された意味」です。
理屈として納得し、必要性を理解している状態です。
理屈として納得し、必要性を理解している状態です。
もうひとつは、「実感としての意味」です。
自分の経験や価値観と結びつき、身体や感情のレベルで感じられている状態です。
資格取得の事例では、「必要だ」という理解はありました。
しかし、それが「自分の未来にどうつながるのか」という実感は、まだ十分ではなかったのかもしれません。
意味が頭では理解されていても、それが自分のこととして実感されていなければ、行動にはつながりにくいのです。
参考書を前にして手が止まってしまうのは、そのような状態の現れだと考えられます。
これは、私たちの日常でもよく起きています。
例えば、健康のために運動が必要だと分かっていても、なかなか始められない。
将来のために貯蓄が大切だと分かっていても、つい後回しにしてしまう。
どれも、「意味がない」わけではありません。
むしろ、その重要性はよく理解しています。
それでも動けないのは、その意味がまだ感情や身体の感覚として結びついていないからかもしれません。
モチベーションは「意味が実感されること」
ここから見えてくるのは、モチベーションとは「やる気を出す」ことではなく、意味が実感されることだということです。
意味が自分の経験や価値と結びついたとき、人は自然に動き始めます。
「やればいいこと」が「やりたいこと」に変わるのは、
その行為が、自分の未来とどう関わっているのか
それを通じて、どんな価値を実現できるのか
それが、自分にとってどんな意味を持つのか
こうした問いに触れたときです。
そして、その意味が感情や身体のレベルで実感されるとき、行動は自然に生まれます。
ここで重要になるのが、キャリアコンサルタントの関わりです。
キャリアコンサルタントの役割は、その意味が実感されるような対話を支援することです。
意味が実感される場を共につくることです。
例えば、
「その未来を思い描くと、どんな気持ちになりますか?」
「それを実現できたら、どんな場面が浮かびますか?」
「その話をしているとき、少し表情が変わりましたね」
こうした問いは、意味を感情や身体のレベルに引き寄せていきます。
また、言葉にならない感覚に注意を向けることもあります。
沈黙の中で考える時間を大切にしたり、
クライアントの表情や声の変化に寄り添ったりすることも、意味の実感につながります。
キャリアコンサルタントの役割は、クライアントを無理に動かすことではありません。
意味が実感される場を共につくることです。
意味が実感されたとき、人は自然に一歩を踏み出していきます。
【問いかけ:あなたへの振り返り】
・今、「やった方がいい」と思いながら、まだ始められていないことは何でしょうか。
それについて考えるとき、どんな気持ちや感覚が浮かんできますか。
・それが実現したとしたら、どんな場面が思い浮かびますか。
そのとき、あなたはどんな気持ちで、どんな様子でいるでしょうか。
・これまで自然と動き出せた経験を思い出してみてください。
そのとき、あなたにとってどんな意味があり、どんな感覚があったでしょうか。
参考文献(一般書)
- エドワード・L・デシ、リチャード・M・ライアン著
『人を伸ばす力―自己決定理論の実践』 新曜社, 2012年
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