「モチベーションが上がらない」の本当の理由 〜現象学から見えてくること〜

分かっているのに、動けない…

「やった方がいいことは分かってるのに、どうしても腰が上がらない」
「頭では理解しているのに、手が止まってしまう」
キャリアコンサルティングの現場で、私はこんな声を何度も耳にしてきました。
あるクライアントは、転職活動に取り組もうと相談に来ました。
「自分の可能性を広げたい」と未来を語り、その表情には希望の色も浮かんでいました。
私は面談の中で、「履歴書はこういう流れで書くと伝わりやすいですよ」と具体的にアドバイスしました。職務経歴を整理するためのフォーマットも一緒に用意し、書き方の見本まで示したのです。
その場ではクライアントも頷き、「これならできそうです!」と意欲的な反応を見せました。
ところが次の面談の日。
「すみません、まだ書けていなくて……」と申し訳なさそうに目を伏せるクライアント。話を聞くと、パソコンを開いて履歴書のフォーマットを目の前にしても、指先が止まってしまうのだといいます。
「やればいいのは分かっているんです。でも手が動かないんです」──この切実な声は、単なる意志の弱さや努力不足では片づけられません。

モチベーションは「内から湧き出す力」なのか?

私たちはふつう、モチベーションとは「内側から湧き出すやる気」だと考えています。だからこそ動けないとき、人は自分を責めがちです。「自分は意志が弱い」「努力が足りない」と。
しかし、現象学という哲学の立場から見ると、この理解には限界があります。
モチベーションとは「やる気を絞り出す力」ではなく、世界に意味を感じたときに自然と身体が引き寄せられることだと考えるのです。
たとえば、散歩の途中で花が咲いているのを見て「きれいだな」と感じる瞬間。
私たちは「花を美しいと思おう」と努力したわけではありません。花が私に意味をもって立ち現れたから、自然に心が動いたのです。
モチベーションも同じです。
「やらなきゃ」と思考で自分を追い立てても、それは意味が身体や感情に届いていない限り、本当の行動には結びつかないのです。

「意味がある」と分かっているのに動けないのはなぜ?

履歴書の事例を改めて考えてみましょう。
クライアントは転職の意欲を語り、履歴書の重要性も理解していました。
アドバイスを受け取り、「役に立ちそうだ」とも言っていた。
しかし、それでも行動に移せなかったのです。
現象学的に言えば、これは「意味が頭では理解されているが、まだ“生きられていない”状態」だと解釈できます。
• 「履歴書は必要だ」という認識はある
• けれど「その履歴書が自分の未来や大切にしたい価値にどうつながっているか」が、身体や感情のレベルで実感されていない
つまり、「社会的にやるべきこと」としては理解していても、まだ「これは私の人生を動かす大事な一歩だ」と腑に落ちていないのです。
クライアントがパソコンを前に固まってしまったのは、その“意味の乖離”の現れだと言えます。

モチベーションとは「意味が生きられること」

ここから見えてくるのは、モチベーションとは「やる気を出す」ことではなく、意味が“生きられる”ことだということです。
「やればいいこと」が「やりたいこと」へと変わるのは、

• その行為が、自分の過去や未来とどう関わっているのか
• それを通じて、どんな価値を実現できるのか
• そのとき、自分の身体や感情がどう反応しているのか

こうした問いに触れるときです。
そして、その「意味を生きられる瞬間」に出会えるようにするのが、キャリアコンサルタントの大切な役割です。では、どのように支援できるのでしょうか。

キャリアコンサルタントができる具体的な支援

  1. 意味を探る問いかけ
    o 「なぜ?」ではなく「どんなときに心が動きましたか?」
    o 「あなたにとって、それはどんな大切さを持っていますか?」
  2. 身体感覚・感情への注目
    ・ 「今それを話しているとき、どんな気持ちになりますか?」
    ・ 「体のどこかが軽くなったり、重くなったりしていませんか?」
  3. ストーリーの語り直し
    ・ 「これまでの経験を物語のように振り返ってみましょう」
    ・ 「あの出来事を今の視点で語り直すと、どう感じますか?」
  4. 未来を“今”に結びつける
    ・ 「その未来像を思うと、今のあなたにどんな影響を与えていますか?」
    ・ 「それを実現できたら、今日の生活はどう変わりますか?」
  5. 沈黙を大切にする
    ・ クライアントが言葉を探しているときに急かさず、沈黙を待つ
    ・ 意味は沈黙の中から芽生え、言葉となって立ち上がることがあります

キャリアコンサルタントの役割は、クライアントを「動かす」ことではありません。
意味が立ち現れる場を共に作り、その瞬間に開かれていられること。
それができるとき、クライアントは自然と自分の足で歩き出していきます。

【あなたへの問い】
あなた自身に問いかけてみてください。

  •  今、「やればいいのにまだ手をつけられていないこと」は何ですか?
  •  それは、あなたにとってどんな未来や価値とつながっているでしょうか?
  •  もし意味がまだ“生きられていない”としたら、どんな問いを立てれば、自分の言葉で語れるようになるでしょうか?

この記事を書いた人

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西口満

「気づきによる学び、自ら成長する」を支援し、ひとりひとりのウェルビーイングの実現と生産性の高い職場のチームづくりを行い、企業や社会の発展に貢献する

ビジネスリーダー育成コーチ、
人事戦略のコンサルティングをしています。

プロフェッショナルとして「人の成長」に関わり続けることをライフワークとし、少しでも誰かの成長のお役に立てれば幸いです。

ブログでは、そんな私が学んだこと、気づいたこと、感じたことを発信し、誰かの、何か、前進のヒントになればと思っています。

これからも情報を発信し続けます。

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