№243 私はクライアントをコーチする時に、クライアントに「相手の靴を履く」という考えを紹介することがあります。
クライアントが問題に直面している時、多くの場合人が関わっています。
上司であったり部下であったり、他の組織の人であったり、顧客であったりします。
相手が無理な要求をしてくる、思うように動いてくれない、相手が自分のことを理解してくれないなど、様々な悩みがあります。
そんな時に、「その相手の靴を履いてみてください、どんな気持ちですか、何が見えますか」と質問をさせていただきます。
私は「相手の靴を履く」という感覚を大切にしたいと考えています。
相手の立場に立って考える
「相手の靴を履く」ということは、相手の立場に立って考えるということです。
私たちは、相手の立場に立ってモノを考えることにしばしば取り組みます。
上司の立場、部下の立場、顧客の立場など。
そこには、部長が望んでいるものは何か、部下が考えていることは何か、顧客が欲しているものは何か、そのような視座が持ち込まれます。
立場を入れ替えることでいろいろな気づきが得られます。
部長の観点では、中長期の長い時間軸、計画や方針に関わる重要性の観点、組織に関わるマネジメントの観点などが得られます。
部下の観点では、その場で起こっていること、実務的な視点が得られます。
また、顧客の視点はマーケティングや顧客のソリューションを考える上では欠かせません。
相手の立場に立って考えることで有益な発想が得られます。
相手の気持ちになって考える
「相手の靴を履く」ということは、相手の気持ちを察して考えるということです。
相手は、どんな気持ちでいるのか、どんな意図やこだわりを持っているのか、好んでいるのか、嫌っているのか、モチベーション的にはどうなのかなど、相手の感情に気づくことで多くの視点が得られることがあります。
人は理屈では動いてくれません。むしろ感情で動くことの方が多くあります。
理屈での説得よりも、まず相手の話を聞き、気持ちを受け止める方が相手の納得に結びつきます。
相手の感情を考えての行動が物事を成し遂げる上でのカギになることは多くあります。
相手の靴を履いて考える
「相手の靴を履く」ということは、相手の立場、相手の気持ちになって考えるということのコツを端的に言い表しています。
居酒屋の座敷を出る時、似た革靴が玄関にずらっと並んでいます。
その時、間違って他人の靴を履いても「これじゃない」とすぐに気づきます。形やサイズが同じであっても履いた瞬間に何か違和感を感じるものです。(たまに泥酔状態で間違って履いて帰る人がいますが)
相手の靴を履いて考えるということは、理性や感情だけでなく感覚や気分まで相手に重ねるということを指しています。
コーチとしてクライアントに「その相手の靴を履いてみてください、どんな気持ちですか、何が見えますか」と質問をさせていただく時、このことまで意図しています。
相手の靴を履く
相手の感覚まで味わうことで、深い気づきが得られないか、そんな意図を含んだ凄い質問です。
なお、コーチやカウンセラーは、「クライアントの靴を履いて」クライアントと同化することは許されません。対人援助者としての役割を常に念頭に置く客観性が求められています。
コーチングやカウンセリングでは「相手に寄り添う」という言葉を使って、クライアントに相対する時の心得を表現します。
コーチやカウンセラーにとっては、「相手の靴」に馴染まないようむしろ注意を払うべきです。