はじめに
管理職の方とのコーチングでは、組織運営についての悩みがよく語られます。
「チームがまとまらない」
「メンバーがそれぞれ違う方向を向いているように感じる」
「どうすれば組織として成果を上げられるのだろうか」
こうした悩みは決して珍しいものではありません。
職場には、実に多様な人材が働いています。
若手社員、中堅社員、ベテラン社員。
最近では、自分より年上の部下を持つことも珍しくありません。
さらには派遣社員や契約社員など、雇用形態の異なるメンバーが同じ職場で働いていることもあります。
経験も違う。
価値観も違う。
仕事に求めるものも違う。
管理職は、そのような多様な人たちを束ねながら組織運営を行わなければなりません。
一方で、多くの管理職は自分なりの「ありたい組織像」を持っています。
例えば、
お互いに信頼し合っている。
自由に意見を言い合える。
困った時には自然に助け合える。
それぞれが主体性を発揮している。
そして組織として成果を上げている。
このようなチームを理想として語る管理職の方々は少なくありません。
しかし現実には、メンバー同士の連携が思うように進まない。
お互いの関心が噛み合わない。
それぞれが個別には頑張っているのに、組織としての力になっていない。
そんな場面に直面することが多々あります。
では、管理職はどのようにして自組織を理想の組織へ導いていけばいいのでしょうか。
今回は、ある新任管理職とのコーチングを例にしながら、異なる価値観を持つ人たちが協働する組織をどのように作っていくのか、そのための考え方と実践のヒントについて考えてみたいと思います。
チームとしてまとまらない
ある新任管理職とのコーチングでのことです。
彼は少し疲れた表情でこう話し始めました。
「チームがまとまらないんです。」
私は尋ねました。
「どのような状態なのでしょうか。」
彼は少し考えながら話し始めました。
「若手は真面目なんです。」
「そうなのですね。」
「頼んだことはきちんとやります。期限も守ります。でも、自分から相談に来ることがほとんどないんです。」
「なるほど。」
「困っているのかどうかもよく分からない。こちらから聞けば答えるのですが、本音が見えないんです。淡々と仕事をこなしている感じですね。」
私は頷きました。
「他のメンバーはいかがですか。」
彼は続けます。
「中堅社員は優秀なんです。」
「どのような点で。」
「しっかりと成果を出してくれます。仕事も早いです。ただ、自分の担当業務に意識が向いていて、チーム全体のことになると少し距離を感じます。」
「そうなのですね。」
「もちろん協力してくれないわけではありません。どうしても自分の目標や成果を優先しているように見えることがあります。」
私はさらに尋ねました。
「ベテランの方はいかがですか。」
彼は少し苦笑しました。
「ベテランは安心感があります。自分の担当業務は確実にやります。」
「それは頼もしいですね。」
「そうなんです。でも、自分の守備範囲から出ようとはしません。経験も知識もあるのですが、若手へのアドバイスも必要最低限という感じです。」
しばらく話を聞いていると、あることが見えてきました。
私は尋ねました。
「それぞれに問題があるのでしょうか。」
彼はすぐに首を振りました。
「いえ、そういうわけではないんです。」
「そうなのですね。」
「若手も頑張っています。中堅も成果を出しています。ベテランも役割を果たしています。」
そして少し間を置いて続けました。
「でも、何か物足りないんです。」
「物足りない、ですか。」
「例えば会議です。」
彼はそう言いました。
「会議をしても意見交換が活発になるわけではありません。」
「なるほど。」
「誰かが発言すると、それで終わってしまうんです。議論が広がらない。」
「他にはありますか。」
「困っているメンバーがいても、自然に助け合う雰囲気はあまりありません。」
「そうなのですね。」
「それぞれが自分の仕事をしている感じです。」
私は少しずつ見えてきました。
このチームは機能していないわけではありません。
むしろ、それぞれが与えられた役割をきちんと果たしています。
しかし、チームとしての一体感が弱い。
活気がない。
まとまりがない。
そして何より、
お互いが力を合わせて成果を生み出している感覚が薄いのです。
彼は最後にこう言いました。
「みんな頑張っているんです。でも、チームとして頑張っている感じがしないんです。」
私はその言葉が印象に残りました。
管理職が求めているのは、単に問題のない組織ではありません。
それぞれが役割を果たすだけの組織でもありません。
おそらく彼は、もっと別の状態を求めているのです。
協働する組織を目指す
「では、どのようなチームになったら理想なのでしょうか。」
私がそう尋ねると、彼は少し考え込みました。
しばらく沈黙が続いた後、ゆっくりと話し始めました。
「難しいですね。」
「そうですよね。」
「でも、今のようにそれぞれが別々に仕事をしている感じではなくなってほしいと思います。」
「別々に仕事をしている感じ、ですか。」
「はい。みんな自分の仕事はきちんとやっています。でも、チームとして同じ方向を向いている感じがあまりしないんです。」
私は頷きました。
「なるほど。」
「例えば、自分の担当以外のことでも気づいたことがあれば声を掛け合ったり、困っている人がいたら自然に手を差し伸べたり、そんなことがもっとあってもいいと思うんです。」
「そうなのですね。」
「今は、誰かが困っていても、その人の問題として終わってしまうことが多い気がします。」
私はさらに尋ねました。
「そのような状態になったら、チームはどう変わると思いますか。」
彼は少し表情を和らげました。
「もっと組織として力を発揮できると思います。」
「組織として力を発揮する、ですか。」
「はい。若手には若手の良さがありますし、中堅には中堅の強みがあります。ベテランには経験があります。それぞれの強みがうまく活かされたら、今よりもっと良い成果が出せると思うんです。」
「なるほど。」
「今は、それぞれが個人で頑張っている感じです。でも、本当はお互いの力を活かしながら成果を出していくチームにしたいんです。」
私はさらに尋ねました。
「そのようなチームでは、メンバーはどのような気持ちで働いていると思いますか。」
彼は少し考えて答えました。
「安心して働いていると思います。」
「安心ですか。」
「はい。困ったことがあったら相談できる。分からないことがあったら聞ける。そういう安心感があると思います。」
「なるほど。」
「それに、自分の仕事だけではなく、チーム全体として何を目指しているのかも共有されていると思います。」
「チーム全体の目標ですね。」
「はい。だからこそ、自分の仕事が組織の成果にどうつながっているのかも分かるのだと思います。」
私は彼の言葉を聞きながら考えていました。
彼が求めているのは、単に仲の良い組織ではありません。
一人ひとりが力を発揮しながら、お互いの強みを活かし、組織として成果を生み出していく状態です。
それは言い換えれば、「協働する組織」なのかもしれません。
私は最後に尋ねました。
「そのような組織を作るためには、何が必要だと思いますか。」
彼は少し考えてから答えました。
「正直、まだよく分かりません。」
そして少し笑いながら続けました。
「ただ、コミュニケーションを増やせば解決する、という単純な話ではない気がしています。」
私は大きく頷きました。
確かにコミュニケーションは大切です。
しかし、協働が生まれている組織を見ていると、その背景には別の要素も存在しているように思えます。
私は、そのことについて彼と一緒に考えてみることにしました。
協働を生み出す5つの視点
では、その「別の要素」とは何なのでしょうか。
私はこれまで多くの管理職との対話を通じて、協働が生まれている組織には共通する特徴があることに気づきました。
それが、次の5つの視点です。
① 共通の目標
チームとして何を目指しているのか。
メンバーそれぞれが、自分の仕事だけではなく、組織として目指す方向を理解しているか。
個人の目標だけが共有されている組織では、それぞれが自分の成果を追いかけることになります。
協働は、「私たちはどこへ向かうのか」が共有されたところから始まります。
② 相互依存
お互いの力が必要であることを認識しているか。
自分一人で成果を出せる仕事は限られています。
営業、技術、事務、管理職。
それぞれの役割が組み合わさることで成果が生まれます。
協働が生まれる組織では、「自分の成功は仲間の支えの上に成り立っている」という認識があります。
③ 役割の明確さ
自分は何を担っているのか。
チームの中でどのような役割を期待されているのか。
役割が曖昧になると、責任の所在も曖昧になります。
一方で、協働する組織では、それぞれが自分の役割を理解しながらも、必要に応じて互いに補い合っています。
④ 成功体験の共有
一緒に成果を出した経験があるか。
人は説明だけで信頼するわけではありません。
共に困難を乗り越えた経験や、協力して成果を生み出した経験によって、「この人と一緒ならできる」という感覚が育ちます。
協働する組織には、大小さまざまな成功体験が蓄積されています。
⑤ 信頼
お互いがチームのために行動していると信じられるか。
困った時に相談できるか。
失敗を責められるのではなく、支援を得られると思えるか。
信頼は協働の土台です。
どれほど優秀な人材が集まっていても、信頼がなければ協働は生まれません。
彼との対話を振り返ると、彼が理想として語っていた組織には、これらの要素が含まれていました。
チームとして同じ方向を向いていること。
お互いの強みを活かし合うこと。
困った時には自然に助け合えること。
安心して相談できること。
そして、そうした関わりを通じて、共に成果を生み出していくこと。
つまり彼が求めていたのは、単にコミュニケーションが活発な組織ではありません。
協働が自然に生まれる組織だったのです。
何から始めるか
では、この5つの視点を踏まえたとき、彼は何から始めればよいのでしょうか。
私は彼に尋ねました。
「今のお話を振り返ってみて、まず何から取り組んでみたいと思いますか。」
彼はしばらく考えていました。
そして、ゆっくりと話し始めました。
「まずは、チームとしてどこを目指しているのかを、もっと丁寧に伝えたいと思います。」
「なるほど。」
「今までは、目の前の仕事を回すことに精一杯でした。でも、それぞれに仕事を割り振るだけではなく、チームとして何を目指しているのかを共有することが必要だと思いました。」
私は頷きました。
彼はさらに続けます。
「それと、一人ひとりともっと話をしてみようと思います。」
「どのようなことを話してみたいですか。」
「どんなことに関心を持っているのか。どんな強みがあるのか。何に困っているのか。そんなことです。」
私はその言葉を聞きながら、少し表情が変わったことに気づきました。
コーチングの冒頭で語られていたのは、「チームがまとまらない」という悩みでした。
しかし今、彼の視線は問題そのものではなく、これから作りたい組織へ向いていました。
もちろん、組織づくりは簡単ではありません。
価値観の違いがなくなることもありません。
一度の働きかけでチームが変わることもないでしょう。
しかし、目指す姿が見えれば、次の一歩は踏み出しやすくなります。
彼は最後にこう言いました。
「何だか少しやることが見えてきました。」
その表情は、コーチングの冒頭で見せていた困惑した表情とは違っていました。
管理職の仕事は、人を管理することではありません。
一人ひとりの力を引き出し、それを組織の力へと変えていくことです。
そのためには、協働が生まれる環境を少しずつ整えていく必要があります。
もし、あなたがチーム運営に悩んでいるなら、一度立ち止まって考えてみてください。
あなたのチームでは、協働を生み出す5つの視点のうち、何が不足しているでしょうか。
そして、そのためにあなたは何から始めますか。
その問いが、理想の組織づくりへの第一歩になるのかもしれません。