管理者を鍛えるには?/カッツモデルによるマネジメントのトレーニング方法とは?

№254 マネジメントに必要なスキルについてのフレームワークがあります。カッツモデルと呼ばれる3つのスキルモデルです。

カッツモデルとは?

カッツモデルは、ハーバード大学教授のカッツ教授(Robert L. Katz)が提唱したモデルです。

1974年9月にハーバードビジネスレビューに寄稿された記事(Skills of an Effective Administrator)が知られています。

マネージャーの選抜と開発において3つのスキルからアプローチをするというものです。

マネージャーの定義を「部下を指揮して特定の目的を達成する責任を負う者」とした上で、その活動が3つのスキルに基づいて行われていると分析しています。

1.テクニカルスキル(実務遂行能力)

担当する業務を遂行する上で必要な知識や技術のことです。
生産技術、会計知識、管理手順などノウハウに関わる理解と熟練度、専門性にかかわるスキルです。
How to doの領域であり、“もの”の領域です。

2.ヒューマンスキル(人間力・対人関係能力)

人間関係を構築する技術です。自己を知り相手を知った上で、効果的な対人影響力を発揮するスキルです。
端的にはコミュニケーションスキルをイメージしますが、単なる対話能力ではありません。
How to connect with peopleが課題であり、“ひと”の領域です。

3コンセプチュアルスキル(概念化のスキル)

仕事を取り巻く状況を構造的、概念的に捉えて、取り組むべき課題の本質を見極める技術のことです。
マネージャーとしては、全体を見て、将来を見て、方針を出し問題解決や意思決定を行う総合判断力を指しています。
What to doの領域であり、”こと”の領域です。

3つのスキルの関係性

カッツモデルでは、これらの3つスキルは管理者の責任レベルによって重要性が異なるとしています。

つまり、トップマネジメント(Top経営者)にはコンセプチュアルスキルの重要性が高く、ミドルマネジメント(Middle中間管理者)を経て、ロアーマネジメント(Lower監督職)では、求められる能力としてテクニカルスキルの割合が高い。

日本の人事部 マネジメント・管理者に求められる能力

ただ、これら3つのスキルは、マネジメントにおいて密接に相互に関連し、統合されるものです。カッツは記事の中で、ゴルフスイングの例をあげています。

手、手首、腕、腰、肩、頭のアクションはすべて相互に関連している。そして、スイングの改善において要素毎に検討を加えることは有意義であると。

3つのスキルの開発方法

管理者のリーダーシップ能力は「生まれながらのもの」と理解されている場合が多く、その開発は難しいとされていました。確かに個人の適性が影響していることは否めません。

しかし、カッツはトレーニングでスキル、パフォーマンスを向上させることは可能だと述べています。

1.テクニカルスキル(実務遂行能力)の開発

実務能力の開発方法については、OJTやOff-JTを通じて知識、技能ともにトレーニング方法はある程度確立されています。

2.ヒューマンスキル(人間力・対人関係能力)の開発方法

対人関係能力の開発方法については、心理学、社会学、人類学など様々な領域でのアプローチがありますが、実際的には自分自身で気づき、学ぶ必要があります

人間の活動に対して次の視点でヒューマンスキルを磨くことが効果的だと見方をカッツは指摘しています。

    • 人びとの感情が「場」の状況に対してどのような影響を与えているか認識する
    • そこから何が学べるのか、自分はどのように振舞うのか考える
    • 他人の言動が明示的、暗黙に何を自分に伝えようとしているのかを理解する
    • 自分の考えをうまく伝える

このような人間活動の理解を基礎とした他者への働きかけはコーチングのプロセスそのものです。

コーチングを学び、実践することはヒューマンスキルのトレーニングとして一番有効かもしれません。
また、自分で気づき、学ぶ必要のあるヒューマンスキルの開発方法としては、コーチングによる支援が有効だと思われます。

カッツは、ヒューマンスキル開発に効果的なトレーニングとしては、ケーススタディとロールプレイングの併用が良いと述べています。

3.コンセプチュアルスキル(概念化のスキル)の開発方法

課題の本質を見極めて、方針を出し問題解決や意思決定を行う総合判断力を開発する方法としてカッツはコーチングをあげています。

答えのない課題に対してどのようにアプローチし、どのように意思決定をしていくかは答えがありません。

とすれば、自分で答えを導き出す方法を身に着けるしかありません。その支援としてはコーチングが有効だとカッツは言っています。

その他の開発方法としては、異なる組織機能のマネジメントを経験することをあげています。

いわゆる人事ローテーションや複数の組織機能にまたがった課題に取り組むことが有効であると述べています。

カッツ理論のまとめ

カッツが言いたかったことは、効果的なマネジメントが管理者のテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つに依存しているということです。

つまり、マネジメントの成功は、管理者が

    1. その管理者が担う組織機能を果たすための十分な技術スキル(知識・職務能力)、
    2. 率いるチーム内でリーダーとしてメンバーと協力的な関係を築くに十分なヒューマンスキル(対人関係能力)、
    3. 状況に関する様々な要因を認識して本質をとらえる概念化のスキル

を駆使した行動をどれだけとれるかにかかっていると言えます。

3つのスキルの相対的重要性は、管理者の責任レベルに応じて異なります。

低いレベルでは技術スキルの割合が高く、経営レベルでは概念化スキルの割合が高い。どの責任レベルにも管理者に共通で求められるのはヒューマンスキルです。

カッツは、このフレームワークでのアプローチによって必ずしも優秀な管理者が輩出されるわけではないが、管理者の選抜、育成、昇進に役立つのではないかと述べています。

最後に

ビジネスパーソンにとって業務遂行能力は基本であり必須のものです。
この能力は自分の外にある知識やスキルを自分の内に取り込む学習となっており、ある意味受動的な学習と言えるでしょう。

対人関係能力も基本的な能力です。
コミュニケーション能力なども研修などで自分の内に取り込むことができるスキルです。
しかし、カッツが人間関係構築のプロセスがコーチングプロセスそのものであると述べているように、対人関係能力向上の本質は自身の内にあるものに対する「気づきによる学び」にあります。

また、状況を俯瞰し意思決定する概念化の能力は管理者として最も大切な能力です。
概念化能力の向上に対してコーチングが有効であるとすれば、教えられるのではなく「自分で考え動くプロセスの中で気づき学ぶ」ことが成長のエンジンということになります。

多くの企業で1on1によるマネジメントが導入され、管理者向けの研修としてコーチングを取り扱うケースが増えてきました。

今回、カッツの記事を読んであらためてコーチングが管理者の育成に対して有効であるとの思いを強くしました。

この記事を書いた人

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西口満

「気づきによる学び、自ら成長する」を支援し、ひとりひとりのウェルビーイングの実現と生産性の高い職場のチームづくりを行い、企業や社会の発展に貢献する

ビジネスリーダー育成コーチ、
人事戦略のコンサルティングをしています。

プロフェッショナルとして「人の成長」に関わり続けることをライフワークとし、少しでも誰かの成長のお役に立てれば幸いです。

ブログでは、そんな私が学んだこと、気づいたこと、感じたことを発信し、誰かの、何か、前進のヒントになればと思っています。

これからも情報を発信し続けます。

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