世代間ギャップをマネジメント課題としてとらえる

はじめに

管理職の方々とのコーチングの場で、「世代間ギャップ」というテーマがよく取り上げられます。

「若手との話が合わなくて、どんなふうにコミュニケーションを取ったらよいかわからない」
「最近の若手は何を考えているのか分かりません」
「うちのチームは年齢差があって、うまく噛み合わないのです」

こうした言葉を耳にすることは珍しくありません。
管理職の方々との対話の中で、何度もこのテーマに出会ってきました。
しかし、ある時から少し違和感を覚えるようになりました。

本当に管理職の皆さんが困っているのは「世代間ギャップ」なのでしょうか。
もし世代間ギャップが解消されたら、本当に組織の問題は解決するのでしょうか。

今回は、ある管理職の方とのコーチングを例にあげながら、「世代間ギャップ」というテーマを掘り下げた事例を共有したいと思います。

世代間ギャップという課題

ある企業の管理職の方とのコーチングでのことです。

彼は少し困った表情でこう切り出しました。
「若手との価値観の違いに困っているんです。世代間ギャップといいますか、若手との考え方の違いを感じて……」
「どのような場面で感じられるのですか。」
私が尋ねると、彼は少し考えながら答えました。
「例えば、新しい仕事を任せた時です。私たちの頃なら、まずはやってみようと思ったものですが、最近の若手は『なぜやる必要があるのですか』『それをやる意味は何ですか』と聞いてくるんです。」
「なるほど。」
「もちろん質問すること自体は悪くないと思っています。でも、自分の思っていることと違う、興味がないことには消極的で、守りの姿勢が強いというのか、やる気がないように見えてしまうんです。」

さらに彼はこう続けました。
「ある若手の部下は指示に対してあまり反応がないんです。しばらく任せていると的外れなことをしている。分からなかったら聞いてほしいと伝えても、『わかりました』と答えるものの、一向に改善しません。最近の若い人は何を考えているのか、さっぱりです。」

私は話を聴きながら考えていました。
こうした話は決して珍しいものではありません。
「最近の若手は指示待ちだ」
「責任の重い仕事を避けたがる」
「昇進意欲が感じられない」
「仕事よりプライベートを優先する」
管理職とのコーチングでは、よく耳にする言葉です。

私は彼に尋ねました。
「その若手の方は、仕事に対して消極的だということなのですか。」
彼は少し首をかしげました。
「いや、そうとも言い切れないんです。自分が興味を持ったことには熱心ですし、勉強もしています。」
「なるほど。」
「むしろ、自分なりの考えはしっかり持っています。」

私はさらに尋ねました。
「その方は、入社した頃からそうだったのですか。」
「いや、最初はもっと積極的だったように思います。」
「そうなのですね。」
「ただ、こちらが期待している動きと違うことが多くて…。いつの間にか『最近の若手は』という見方をしていたかもしれません。」

私はもう一つ質問をしました。
「その若手の方以外にも、積極的な若手はいませんか。」
彼は少し笑いながら答えました。
「いますね。言われなくても動く人もいますし、自分から提案してくる人もいます。」
「では、若手全員が同じというわけではないのですね。」
「そうなりますね。」

しばらく沈黙が流れました。
そして彼はこう言いました。
「考えてみると、若手だからというより、一人ひとり違うのかもしれません。」

私はその言葉が印象に残りました。
私たちは問題に直面すると、「最近の若手は」「今の世代は」という言葉で状況を整理したくなります。
その方が分かりやすいからです。

しかし、その言葉によって見えなくなるものもあります。
それは、一人ひとりの個性や価値観の違いです。
若手の中にも様々な人がいます。
主体的な人もいれば慎重な人もいる。
挑戦を好む人もいれば、納得を重視する人もいる。
そして管理職が本当に向き合うべき相手は、「最近の若手」という抽象的な存在ではなく、目の前にいる一人の部下なのです。
そう考えると、私の関心は次第に別の方向へ向かっていきました。

世代間ギャップの問題を解決するためには、まず相手を理解する必要があるのではないか。
そのためには、もっとお互いの考えや価値観について話し合う必要があるのではないか。
私はそんなことを考えながら、さらに対話を続けることにしました。

コミュニケーション不足という課題

私はさらに対話を続けました。
「その若手の方は、普段どのようなことを考えているのでしょうね。」

管理職は少し考えながら答えました。
「正直なところ、よく分からないんです。」
「そうなのですね。」
「仕事について話すことはありますが、業務連絡が中心です。本人が何を大事にしているのか、何に興味を持っているのかまでは、あまり聞けていないかもしれません。」

私はそこで尋ねました。
「もし、その若手の方が何を考えているのか、どのような価値観を持っているのかが分かったら、今の状況は変わると思いますか。」

彼は少し考えてから答えました。
「変わるかもしれません。」
「どのようにですか。」
「例えば、なぜ質問をしないのか、その理由が分かるかもしれません。」
「なるほど。」
「本人なりの考えや不安があるのかもしれませんし、本音を知ることができれば、もっと違う関わり方ができるような気がします。」
「そうですか。」
「今までは『最近の若手は』と考えていましたが、その部下自身のことをあまり知らないのかもしれません。」
私はその言葉に頷きました。

世代間ギャップという言葉で考えている限り、相手は『最近の若手』という抽象的な存在になります。
しかし、目の前にいるのは一人の部下です。
どのような経験をしてきたのか。
何を大切にしているのか。
どのようなことに不安を感じるのか。
何にやりがいを感じるのか。
それは話してみなければ分かりません。

彼は続けました。
「まずはもっと話をしてみようと思います。」
「どのような話ですか。」
「仕事の進め方だけではなくて、本人が何を考えているのかを聞いてみたいですね。」
「なるほど。」
「私自身も、なぜその仕事をお願いするのか、どんな期待をしているのかを、もっと丁寧に伝えた方がいいのかもしれません。」

私は、それはとても大切な視点だと思いました。
価値観の違いを乗り越えるために必要なのは、まず相手を知ろうとすることです。
そして、自分の考えも伝えることです。
コミュニケーションとは、単に会話の量を増やすことではありません。
お互いの考えや価値観を理解しようとする営みです。

彼は少し表情を和らげながら言いました。
「結局、若手を理解しようとしていなかったのかもしれませんね。」
私は微笑みながら答えました。
「そうかもしれません。」

ここまでの対話を通じて、彼は「世代間ギャップ」という捉え方から、「目の前の部下を理解する」という視点へと変わり始めていました。

しかし同時に、私は別のことも考えていました。
仮にコミュニケーションが増え、お互いを理解できるようになったとします。
すると、この問題は本当に解決するのでしょうか。

部下の価値観を理解することと、その力が発揮されることは同じではありません。
相互理解が進むことと、組織として成果を生み出せることも同じではありません。

コミュニケーションは重要です。
しかし、それはゴールではなくスタートなのかもしれません。

私はそんなことを考えながら、さらに対話を続けることにしました。

コミュニケーションの先にあるもの

この管理職の方との対話を終えた後、私はしばらく考えていました。
今回の対話を通じて、彼は一つの気づきを得ました。
「最近の若手は」と世代でひと括りにするのではなく、一人ひとりの部下と向き合ってみよう。
もっと話をしてみよう。
相手の考えや価値観を理解しよう。
それはとても大切な気づきです。

実際、マネジメントにおいてコミュニケーションは欠かせません。
部下の考えを知ること。
自分の期待や意図を伝えること。
相互理解を深めること。
これらは信頼関係を築く上で重要な土台になります。

しかし、私は同時にこうも思いました。
コミュニケーションは何のために行うのでしょうか。
相互理解そのものが目的なのでしょうか。
信頼関係を築くことがゴールなのでしょうか。
おそらく違います。

彼が本当に実現したいのは、部下一人ひとりが力を発揮し、チームとして成果を生み出すことではないでしょうか。
そう考えると、世代間ギャップの問題も違って見えてきます。

世代間ギャップそのものが問題なのではありません。
コミュニケーション不足が問題なのでもありません。

本当に向き合うべき課題は、「一人ひとりの違いをどう活かすか」というマネジメントの課題なのです。

若手の価値観を理解することは大切です。
しかし、それは出発点に過ぎません。

その人がどのような強みを持っているのか。
どのような仕事に意欲を持つのか。
どのような環境で力を発揮するのか。
そして、その力をどのように組織の成果へと結びつけるのか。

そこまで考えて初めて、マネジメントの視点に立ったと言えるのではないでしょうか。

私はここで、世代間ギャップというテーマをコミュニケーションの問題としてではなく、マネジメントの問題として捉えるようになりました。

世代間ギャップは、管理職が向き合う数多くの現象の一つです。
その現象の背後には、人材育成の課題があり、個人の能力発揮という課題があり、そして組織パフォーマンス向上という課題があります。

管理職に求められているのは、違いをなくすことではありません。
違いを理解した上で、その違いを組織の力へと変えていくことなのです。

個性の発揮を組織パフォーマンスにつなげる

今回のコーチングは、「世代間ギャップ」というテーマから始まりました。
この管理職は、「最近の若手は何を考えているのか分からない」と悩んでいました。
しかし対話を進める中で見えてきたのは、世代間ギャップそのものではありませんでした。

若手をひと括りにして捉えていたこと。
目の前の部下の価値観や考え方を十分に理解できていなかったこと。
そして、コミュニケーションを通じて相手を理解しようとしていなかったことでした。

もちろん、コミュニケーションは重要です。
しかし、コミュニケーションは目的ではありません。

彼が本当に実現したいのは、一人ひとりの能力や個性が発揮され、それが組織の成果につながる状態ではないでしょうか。

若手には若手ならではの強みがあります。
新しい発想があります。
時代の変化に対する感度があります。
一方で、経験不足からくる課題もあります。

管理職に求められるのは、そうした違いをなくすことではありません。
違いを理解し、それぞれの力が発揮される環境をつくり、その力を組織の成果へと結びつけることです。

世代間ギャップという言葉で問題を捉えている限り、議論は「若手理解」に留まりがちです。
しかし、マネジメント課題として捉え直すと、見える景色が変わります。

問うべきことは、「最近の若手はなぜ分かってくれないのか」ではありません。
「私はこの部下の力をどのように引き出し、組織の成果につなげるのか」です。

世代間ギャップはなくならないでしょう。
時代が変われば価値観も変わります。
しかし、本当に重要なのは、その違いをどう活かすかです。

今回のコーチングを通じて私が感じたのは、世代間ギャップというテーマの先には、管理職としての本質的な問いがあるということです。

その問いに向き合うことが、一人ひとりの個性を組織の力へと変え、組織パフォーマンスを高める第一歩になるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

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西口満

人はいかに成長するのか。
この問いを出発点に、キャリアコンサルティング、コーチング、人材育成の実践に取り組んでいます。

このブログでは、キャリアを中心とした人の成長に関わる探究と、成長を支える支援のあり方について発信しています。
これからも情報を発信し続けます。

キャリア開発・人材育成コンサルタント
オフィス気づきと学び 代表

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