№260 センスメイキングという言葉をご存知でしょうか。日本語に訳すと意味(Sense)をつくる(Making)です。アメリカの組織心理学者のカール・ワイク(1936~)によって紹介された理論として知られています。
センスメイキングとは
「意味付け・納得」のことです。変化が激しくて先が全く見えない時、予測不能な状態において、今何が起こっていて、どこへ向かおうとしているのか、組織や組織メンバーに起こっている事象をどのように捉えるか、意味付けを行い、行動を決定していくプロセスを言います。
このプロセスの中には、事象の意味づけだけでなく、メンバーの間で共通のコンセンサスをつくり、お互い納得するまでの能動的な働きかけやリーダーシップが含まれます。
センスメイキングの説明でよく引用される実話があります。
ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈の雪山で、猛吹雪に見舞われ遭難した。彼らは吹雪の中でなす術なく、テントの中で死の恐怖におののいていた。その時偶然にも、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。彼らは地図を見て落ち着きを取り戻し、「これで帰れるはずだ」と下山を決意する。彼らはテントを飛び出し、猛吹雪の中、地図を手におおまかの方向を見極めながら進んだ。そしてついに、無事に雪山を下りることに成功したのだ。しかし、そこで戻ってきた隊員が握りしめていた地図を取り上げた上官は、驚いた。彼らの見ていた地図はアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのである。
雪山で遭難した軍隊はなぜ生還できたのか 『世界標準の経営理論』で学ぶ「センスメイキング理論」
入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授 (DIAMOND Online 2019.12.27より)
このエピソードは、正しい答えのない状況にあっても、そこに意味をきちんと見出してメンバーがまとまり行動を起こしていけば結果がでるということを示しています。たまたまうまくいっただけかもしれません、ただ救助を待つという選択肢もあったでしょう。しかし、救助を待つという決断をするにしても「待つ」という行動に意味付けがなされなければ、すぐに力が尽きてばたばたと倒れていくことになったのではないでしょうか。
アフターコロナに向けたセンスメイキング
まさに、コロナウィルスによって先の見通しがきかず、大きく社会が変化する可能性を秘めた今です。センスメイキングの考え方が必要なのではないかと思われます。
この状況は私たちにとって何の意味があるのか、新型コロナウィルスがもたらす変化は何なのか、意味付けをすることが大切です。そして社会全体として納得し、次の社会に向けたプロセスが必要です。
5月6日までと言われていた非常事態宣言は延長される方向です。延長後あと1か月で解除されるかもしれません。仮に解除されるにしても3密(密集・密接・密閉)を避ける行動は継続しなければなりませんし、完全収束には1年以上、それ以上かかるかもしれません。
終わりが見えない中での自粛生活が続いています。この苦労の後には何があるのか、何のために努力するのか、今起こっていることの「意味付け」が腹落ちできればもっとがんばれるのではないでしょうか。
テレワークや時差出勤の定着から、満員電車による通勤のない社会がやってきて働き方改革は意外とあっさり達成する。9月入学への改革も実現するかもしれません。政治のリーダーシップが必要ですが、この混乱をきっかけに徐々に社会のコンセンサスが得られつつあるように思います。
ソーシャルディスタンスの習慣化、人とのコミュニケーションの方法も変わるでしょう。おそらく収束後の世界は以前と同じ世界ではない予感がします。
今、アフターコロナ・目指す社会について、みんなが納得できる意味付け・センスメイキングが必要です。
- あなたは、これからどんな社会が訪れると思いますか?
- あなたは、これからどんな社会をつくっていきたいですか?
- そして、あなたは、何から一歩を踏み出しますか?
これらの問いに真剣に向き合う必要がありそうです。