№210管理職になんてなりたくない、と思っているあなた、ご一読ください。
サラリーマンの居酒屋での愚痴によくあるフレーズです。
「管理職って、悲惨だよな」「あんな管理職になんてなりたくないよ」
上司拒否、管理職への戸惑い
冒頭の言葉は、日ごろ上司の姿を見て「あんな働き方はしたくない」と思っているということなのでしょう。
遅くまで残っても残業はつかないし、上からの無理難題にNOと言えずこき使われて、責任は取らされる、まさに悲惨な管理職像を持ってしまっています。
『リフレクティブ・マネジャー』(中原淳 金井壽宏・光文社新書)という本の中では、このような会社に潜むメンタリティを「上司拒否」と名付けて紹介されています。
部下に「悲惨」と言わせているのは、上司かもしれません。
日頃、部下は上司の日常の悲惨な姿を見ていることから、「悲惨さ」を無意識的に学習してしまいます。
あるいは、「あんな管理職になりたくない」の意味の中に「自分だったらこうするのに」「こうすべきなのに」という意味があるとすれば、上司のマネジメントのやり方に対して拒否反応を示している可能性もあります。
「上司拒否」という言葉の中に、昇進に対する「抵抗」という思いだけでなく「戸惑い」の意識も見られ、いつかは乗り越えなければならないというポジティブな思いも同居しているのかもしれません。『リフレクティブ・マネジャー』の中で指摘です。
人材育成に携わる者として何か支援できないものかと考えてしまいます。
管理職になりたくない症候群
『リフレクティブ・マネジャー』には「管理職になりたくない症候群」が紹介されていました。
金井壽宏氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)はその理由について次のように分析されています。
1.またここでひと皮むけたくない
担当者として一人前にやっていたのに、管理職になるともうひと皮むけてやっていくのは大変そうだし、一人でやっている方が気楽だ。
2.管理職になると損をする
管理職になると今よりも忙しくなって時間的に損をするばかりか、金銭的にも損をするかもしれない。今は残業代をもらっているが、管理職になると残業がつかなくなり、実質の給料が減ってしまうかもしれない。
3.現場にもっといたい
ずっと慣れ親しんだ仕事から離れるのは寂しい。完全に離れるわけではないと思うが、第一線からある程度の距離を置くことになるのは抵抗がある。
4.管理という言葉からして情けない
「管理」という言葉のイメージが悪い。人を型にはめる、命令する、プレッシャーをかけるというイメージ。管理の仕事というのは憂鬱な仕事だ。
5.仕事の出来栄えを他の人に委ねるのが不安
管理職になると仕事の出来栄えは自分だけでなく、任せた他の人々の頑張り具合に依存することになる。理屈に合わないし、不安に感じる。
症候群に対処するには
では、人材育成に携わる者としてどのように考えて対処するとよいのでしょうか。
1.変化(成長)に対して人はとかく抵抗してしまうものですが、このままでいいとも思っていないはずです。
成長を望んでいるはずだという前提のもと接することが大切です。
2.時間的金銭的に損をすることに対する対処は難しいです。
人事制度を変えて昇進による金銭的なメリットを大きくすることも急にはできません。
職務が一段上になることで権限が与えられ、より大きな仕事を任せられ、実績を重ねていくことで、さらに将来が開けていく、結果的に給与金銭面も報われていくと考えるのが良いのですが、目を仕事のスケール拡大や将来に向けていくしかなさそうです。
3.現場の第一線に居たい、という思いについても仕事拡大のおもしろさに気づいてもらうのがよいのではないでしょうか。
今どきの管理職はマネジメントだけやっていればよいということはなく、プレイングマネージャーとして現場の先頭に立つケースが多くなっています。
4.「管理」のネガティブイメージについては、特段の対応はしなくても大丈夫だと私は思いました。
実際のマネージャーの仕事をする中で、リーダーとして活躍するというポジティブイメージへの意識の書き換えを促します。
5.他者に任せられずに自分で何でもやらないと不安、気が済まないというのは性格的なものかもしれません。
「部下に任せて失敗したら自分が責任を負わなければならない」という不安やジレンマは理解できます。
部下に任せて成功すれば自分の成績になるということに着目させます。
「部下に任せて部下育成をすることは管理職の仕事で、部下の成長はそのまま上司の成績である」ということに気づき、意識を持ってもらうことが大切です。
サラリーマンの成長課題
「管理職になりたくない症候群」はサラリーマンが乗り越えないといけない成長課題なのではないでしょうか。
組織に入って年数を経るうちに後輩が増え、リーダー的な存在となり、やがて組織を率いるマネージャーを期待される時期がやってきます。
自分でもキャリアを積んでいくうちに、管理職になるということを意識し、できればなりたいと願う時期がやってきます。
このまま平社員でいるのか、管理職となって次の成長ステージに行くのかの分かれ目になります。
『リフレクティブ・マネジャー』では、E・H・エリクソンのキャリアにおける中年の発達課題「世代継承性」について述べられていました。
キャリア中期になると自分の体力の衰え、考えの固さなど、停滞感を感じ始める一方で、「次世代へつなぐ」ことに対する意識が高まっていきます。次世代を考える機会も増えてきます。
自分の経験を次世代のために活かす、次世代を育てることに自然と仕事がシフトしていきます。
管理職になるということをキャリア形成のひとつの段階として捉え、自分はどう向き合うのかを考えてみる、大切なことだと私は思います。