№190ワンセンテンスブログ
人材育成に長くかかわっています。
研修などで、「リーダーシップとは」「マネージメントとは」といった一通りの学習の後に、受講生の方々に挨拶する場面があります。
「学んだことを職場で活かして欲しい」「リーダーシップをとって欲しい」「しっかりとマネージメントして欲しい」と話します。
「欲しい」の中には、「すべきだ」「しなさい」という義務や命令の意味が込められています。
果たして、知識を伝え、義務を伝えて、それで本当に人材育成がなされたと言えるのでしょうか。
今日のワンセンテンス
今回のワンセンテンスは、梅田悟司氏の本を読んでいて心に残った一文になります。
人を「動かす」ことはできない。「動きたくなる」空気をつくる
出典『言葉にできるは武器になる』(梅田悟司著、日本経済新聞社)
人を動かすことはできない
コピーライターである梅田悟司さんは、「人を動かす」広告づくりを考える時に、基本的に「人を動かすことはできない」という前提に立っておられます。
宣伝内容を分かりやすく丁寧に説明しても、うまい言葉を並べても、表面の言葉だけでは「人を動かす」広告にはならないそうです。
言葉に納得感や共感できるものを感じないと人は行動は起こしません。
梅田さんは、「星の王子様」で有名なサンテグジュペリの次の言葉をあげています。
船を作りたいのなら、男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに、広大で無限な海の存在を説けばいい。
言葉が相手の心に響くことが必要だということなのでしょう。
動きたくなる空気をつくる
言葉に人を動かす力はありません。命令の言葉は、命令を発する人や組織の権力が込められているだけです。
言葉が持っている力は、「人に動きたいと思わせる力」です。人が動きたくなる「空気」をつくることができます。
「北風と太陽」の童話を思い出します。
旅人のコートを脱がすのに、風はコートを吹き飛ばそうとしますが失敗。太陽は照らして暑くして旅人自らコートを脱ぐように仕向ける、というお話です。
最終的には自ら「そうしたい、必要だ」と思わない限り人は行動しません。
「人を動かす」ということは、「自然と動きたくなる、自らすすんで動いてしまう」状態をつくり出すということです。
「自然と、自ら」といった自発性が重要です。
「しなさい」という命令や「しなければならない、すべきである」という義務によっても人は動きますが、 効率も悪く長続きしません。
無理やり人を動かすことはできるかもしれませんが、本当の意味での動いたことにはなりません。
人を成長させることはできない、人材育成は成長の支援活動
人材育成に考えを巡らせました。
私は、人材育成を考える時に、基本的に「人を成長させることはできない」という前提に立っています。
知識やスキルを分かりやすく丁寧に教えても、OJTであっても、ひととおりの教育では人は成長しません。
教えれば知識・スキルが身につき、作業はできるようになるでしょう。
しかし、その人の心の中に気づきや納得感がなければ、教えられたことを教えられたとおりにするだけで、仕事を通じた人の成長はありません。
教育には直接に人を成長させる力はありません。
教育は人の成長に必要な情報の提供、成長を促すきっかけを与えるにすぎません。
私は、人材育成は人が成長を促す「空気」をつくることだと考えています。
人の成長は、自ら気づいて自ら成長するしかありません。
人材育成は成長の支援活動です。
研修をしただけではダメ。研修で学んだことの価値に気づくための働きかけが大切だと考えています。