№270 IBMには「野鴨の精神」というものがあるそうです。
私たち自身が野鴨でありたいと願う一方で、人材育成でアヒルを育てる愚を犯していないか、を考えさせられました。
今日のワンセンテンス
Wild Ducks(野鴨たち)
「ビジネスには野鴨が必要なのです。そしてIBMでは、その野鴨を飼いならそうとは決してしません」。
出典『IBM100年記念映像』より(注、ホームページ)
これは、1959年、当時のIBM会長であったトーマス・ワトソン Jrの言葉です。
毎年、冬になるとやってくる渡り鳥の鴨に、来る年も来る年もえさをやり続けていると、そのうち何羽かは、すっかり怠け者になり、飛ぶことすらできなくなる – デンマークの哲学者セーレン・キルケゴールの書物から引用し、困難にたちむかう渡り鳥の精神、野鴨の精神こそ、IBMの社員には必要であると説きました。
野鴨の哲学
キルケゴール(1813~1855)はデンマークの哲学者です。実存哲学の先駆け、創始者と言われるように彼は人間の生をひとりひとりに固有の本質があると捉えて、主体的に生きることを説いた哲学者です。
キルケゴールが説いた有名な寓話があります。
毎年冬になると越冬のために湖にやってくる渡り鳥の鴨に、ある老人が毎日餌をやるようになりました。渡り鳥は季節が過ぎると次の土地に向かって飛び立つものです。ところが鴨は、老人に毎日餌を与えられることに慣れてしまい、冬が終わっても次の土地に飛び立つことなくその湖に住み着くようになりました。
やがて老人が亡くなりました。餌に困った鴨たちは飛び立とうとするのですが、うまく飛ぶことができなくなってしまっていたのです。かつての野鴨としてのたくましい力は失われていました。そのうちに嵐がやってきて湖に激流が流れ込んできたときに逃げることもできず、飛べない鴨たちは死んでしまいました。
キルケゴールの教訓は、野鴨を飼いならすことはできても、飼いならされた鴨を野に返すことは決してできないというものです。
野鴨たれ、家鴨になるな
家に鴨と書いてアヒルと読みます。
野生のマガモを飼いならして卵や肉を得るために家禽化したもので、体重が増え、翼が小さくなり、数メートルしか飛べなくした鳥です。
IBMの精神は、日常に飼いならされるな、安定にあぐらをかくな、苦労を厭わず、いつもチャレンジ精神でことにあたれ、ということを言っているのでしょう。
野鴨たれ、家鴨になるな、というメッセージです。
私たちは与えられることに慣れてしまい、与えられないことに対して不満を持ってしまいがちです。私たちは、自ら獲得する、自ら考え動くということを避けようとしてしまっています。
それでは家鴨になってしまいます。本来飛ぶことのできる種であるにもかかわらず、ただ誰かのためにせっせと卵を供給し、やがて自分も食べられてしまうのです。
つらいことが多いかもしれません。失敗もあるでしょう。しかし、私は野鴨のように自分の持っている能力いっぱいを使って自由に生きることを選択したいです。
人材育成に転じて考える
私たちは人材育成の場面で野鴨の能力を奪っていないでしょうか。
指導、助言によって「答え」を教える。
指示・命令によって決まった手順通りの行動を強要し、そこからの逸脱を許さない。
マニュアル人間はダメだと言いながら...。
私たちは家鴨を育てていないでしょうか。
「このようにやってくれ」こと細かく手順を指示することをHOW指示と言います。
HOW指示は「指示待ち」を作り、自分で考えて動く人材への成長を妨げます。
WHY思考を育てることが大切だといいます。
ここで言いたいWHY思考は「なぜ」という原因を追究する姿勢を指しているのではありません。「これをなぜやるのか」という目的を考えて行動することを指しています。
仕事には目的がある、目的を持って行動する、この考えをもっと人材育成の場に持ち込みたいです。