2019年4月13日№165書評ブログ
『リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書』白川克 著 日経BP社
人材育成に携わる人、セミナー講師にはお勧めの書です。
いわゆる「はこ物」といった数時間、数日の単発研修では人材育成はできません。
研修を終えて受講生から「ありがとうございました」とお礼の言葉があっても、職場に戻ってからの実践ができずにいつの間にか忘れ去られてしまいます。
そもそも受講の意思さえ怪しい受講生もいて、ようやくエンジンがかかってきたと思ったら時間切れを迎える。
何とかするのが、プロ講師としての工夫なのでしょうが、それでも限界があります。
本書に書かれていること
本書では、変革プロジェクトをファシリテーション(コンサルテーション)していく中で、受講生(プロジェクトメンバー)の育成を図りつつ、プロジェクトそのものを成功に導くノウハウが余すことなく書かれていました。
業務改革プロジェクトの運営にコンサルタントとして継続的にメンバーに関わる中で、組織革新ノウハウ、人の成長ノウハウを折り込んでいくというもので、先程述べた研修講師の悩みに応える部分が多くありました。
是非、お読みいただければと思います。
本書の構成
本書の構成は以下のようになっています。
第1部 育つ変革プロジェクトとは何か
著者が関わった「住友生命青空プロジェクト」のプロジェクトを例に挙げて、育つ変革プロジェクトの原則について述べられています。
第2部 育つ変革プロジェクトのつくり方
最初が肝心です。プロジェクトを仕掛けていく時にまずどのように考えて、段取りをするのが良いのかについて詳細に述べられています。
- プロジェクトのメンバー選抜、コンサルティング会社を選択をする時にどのような考え方ですればいいのか
- 学ぶ姿勢をつくるための工夫について、キックオフとは別にチームビルディングを強く意識したミーティング(ノーミングセッション)を行うこと
- 学ぶべきこと、プロジェクトに必要なコンピテンシーの明示、手本とのギャップを示して「ヤバイ!」と思わせる工夫など
- 最初の一歩の踏み出し方、アプローチ図を使っての議論や会議のスケジュールを抑えるコツまで
- ゴールに対する合意をどのように行うか
人材育成を考えた立ち上げになりますので、単なるプロジェクトの立ち上げ以上に様々な仕掛けが必要になりますが、事例を入れながら、また、ケースに応じた選択肢を示しながら丁寧に論じられていました。
第3部 走りながら育てる
プロジェクトが始動したら、様々な壁にぶつかることになります。
実践、チャレンジの中で乗り越えるための必要なスキル、ノウハウを学びつつ、情報提供を注入しながらプロジェクトを前へ進めて行く過程が述べられています。
チャレンジの場を多く用意する。ファシリテーションスキルを学び実践させる。
また、学んだことの実践では、失敗しても大丈夫という環境、本音で議論するための場、「安全な場」の確保も重要な学びの場づくりの要素になります。
コンサルタントの心構えとしては、プロジェクトについて「管理するな、並走しろ」ということも大事なことだと述べられていました。
押し付けよりもフィードバックでの成長が大切だということがあり、フィードバックの出し方、受け方まで丁寧に述べられていました。
フィードバックの一種としてプロジェクト進行の節目には振り返りミーティング(サンセットミーティング)を勧めておられました。
会議やプロジェクト運営そのものを振り返ることで、①方向性のズレの修正、②組織としての学びを確実なものにする、③メンバー相互の振り返りで個人の成長につなげる、などの効用があります。
第4部 組織全体で学ぶ
組織としてノウハウを学ぶということは、「方法論」を学ぶということです。
方法論とは「目的を達成するために、いつ、何を、どのようにやるのかが書かれた知識体系」のことです。
ここで述べられているのは、方法論は基本、ガイドラインであるということで、実際に適用するにはカスタマイズしていくことが重要だということでした。
組織としては、方法論をカスタマイズする能力、方法論を編み出す能力が求められるということです。
本書では、人材育成のプロジェクトにおいてどのように適用、応用され、創られてきたか、が事例とともに述べられています。とても参考になります。
本書の底流に流れている考え方
本書では2つ考え方が底流にあるようです。
修羅場で培われる
ひとつは、リーダーシップは修羅場で培われるということです。
リアルな変革プロジェクトを運営する中で学び、実践することでリーダーシップは培われます。
リーダーは天賦の才などではなく、トレーニングや実践経験により誰でも身に着けることができるという考え方です。
Have Fun!
もうひとつは、プロジェクトの成功も学びについては、楽しむことが深くかかわっているということです。
「危機感というネガティブな感情よりは、好奇心や自己肯定感、同志意識、楽しさみたいなポジティブな感情にドライブされた方が、より深い本質的な学びにつながる。」と述べておられます。
嫌々やるのは論外として、必要に迫られるを越えて自らの中に掻き立てられるものがある、バイタリティが学びに最も有効だということなのでしょうか。
最後に
研修から人材育成へ、人材育成から次の組織開発へと進めて行きたいと思っていた私にとっては、タイムリーに良書に巡り合ったと思いました。
興味のある方は是非どうぞ。