2019年2月17日No.111 ワンセンテンスブログ
「一日一文 英知の言葉」から梶井基次郎を取り上げました。
小説の中の一節ですが、キャリアコンサルタント、コーチングの要諦のようなものを重ね合わせました。
私は好んで闇の中へ出かけた。渓ぎわの大きな椎の木の下に立って遠い街道の孤独な電灯を眺めた。深い闇の中から遠い小さな光を眺めるほど感傷的なものはないだろう。私はその光がはるばるやってきて、闇の中の私の着物をほのかに染めているのを知った。またあるところでは渓の闇へ向かって一心に石を投げた。闇の中には一本の柚の木があったのである。石が葉を分けてカツカツと崖へ当たった。ひとしきりすると闇の中からは芳烈な柚の匂いが立騰ってきた。(闇の絵巻)
『檸檬・冬の日 他9編』岩波文庫
梶井基次郎(1901 – 1932)、小説家、代表作は「檸檬」、簡潔な描写と詩情豊かな小品を残しています。
この一文から何を感じ取れるか考えました。
まず文章表現が素晴らしい。暗闇の向こうに小さく光る電灯、暗闇から立ち上るゆずの香り、目を閉じて味わって文章から視覚臭覚にとても強く訴えかけてくるものがあります。
今ブログを書いていますが、無味乾燥なパソコンやスマホの画面から読んでいただいている方々にこんな情感あふれる文章をお届けできればいいなと思いました。(私にはとても無理ですが...。)
次に「孤独な電灯」や「立ち上る芳烈なゆずの香り」は自分にとって何を意味しているのかを考えました。
キャリアコンサルティングやコーチングをしている中で、最も関心を向けているのはクライアントの心の中にある「成長の種」です。
どうすればいいかわからない、悩んでいるクライアントと対話を重ねます。
あれこれ話してるうちに、クライアントが自身の心の中遠くに光を見つけます。私自身の心の中にもその光が届いていることがわかります。
そこに光があることがわかれば前へ進むことができます。
キャリアコンサルティングやコーチングの場面では、こちらからクライアントへの質問を投げかけます。
質問は悩みをかき分けカツカツと音を立ててクライアントの心の中に落ちていきます。
そうした対話の中からやがって芳烈なクライアントの意欲が立ち上ってくることがあります。
梶井基次郎のこの1文を見ながら、自分が今最もやりたい「人の成長に関わる」ことを思い起こすことができました。
クライアントとの闇の中での時間をじっくりと味わい、「成長の種」をお互い見つけて、育てていきたいと思います。