協力しないチームというマネジメントの悩み
「もっとチームとして協力してほしい」
管理職であれば、一度はこう感じたことがあるのではないでしょうか。
ある管理職のEさんは、チーム運営に悩んでいました。
メンバーはそれぞれ能力が高く、担当業務も順調に進んでいます。
個々の成果も安定しており、表面的には問題のないチームでした。
しかし、Eさんには一つの不満がありました。
メンバー同士の協力がほとんど見られないのです。
担当外の業務には関与しない。
困っているメンバーがいても助け合いが起きない。
業務の情報共有も必要最小限にとどまっている。
それぞれが自分の仕事をきちんとこなしているにもかかわらず、
チームとしての一体感は感じられませんでした。
Eさんはまず、会議の場で直接伝えました。
「もっとチームとして協力していきましょう」
「お互いにサポートし合うことが大切です」
しかし、状況は変わりませんでした。
そこでEさんは、さらに指示を強めました。
・進捗状況の共有を義務化する
・困っているメンバーがいればサポートするよう指示する
・チームとしての成果を強調する
それでも、メンバーの行動は大きく変わりませんでした。
メンバーからは次のような反応が返ってきます。
「担当が決まっているので」
「自分の仕事で手いっぱいなので」
「まずは自分の業務を優先すべきではないでしょうか」
Eさんはさらに不満を感じました。
「なぜ協力しないのだろう」
「チームなのに、なぜバラバラなのだろう」
この問題に向き合う中で、
Eさんのマネジメントの成長とともに、チームの変化も始まります。
指示ではチームは変わらない
Eさんは、さらに対策を進めました。
・チーム全体の目標を設定する
・進捗共有のミーティングの回数を増やす
・協力の重要性を繰り返し伝える
すると、メンバーの行動に一定の変化が見られました。
会議での発言は増え、進捗の共有も行われるようになりました。
しかし、日常業務の場面では、
依然として担当外への関与はほとんど見られませんでした。
Eさんは次第に考え始めます。
メンバーは、指示されたことは守っている。
しかし、自発的な協力は生まれていない。
Eさんは、次のような仮説を立てました。
「メンバーは指示されたことに対応しているだけではないか」
「協力の必要性は理解しているが、価値観までは変わっていないのではないか」
「つまり、チームの関係性そのものは変わっていないのではないか」
ここでEさんは気づきます。
これまでの対応は、
メンバーの行動を変えさせることに焦点を当てていた。
しかし、チームの関係性や、
メンバーの意識そのものには働きかけていなかったのではないか。
そこでEさんは、メンバーへの関わり方の枠組みそのものを変えることにしました。
まず、Eさんはメンバー一人ひとりと向き合うことから始めました。
すると、次のような声が聞こえてきました。
「自分の業務だけでも手いっぱいです」
「他の人の業務を手伝う余裕がありません」
「どこまで関与していいのか分かりません」
「担当の線引きが曖昧になるのが不安です」
Eさんは、こうした声に耳を傾けました。
そして、それぞれの立場や不安を理解しようと努めました。
この対話を通じて、Eさんは気づきます。
メンバーが協力しないのではなく、
協力することに不安や迷いを感じていたのではないか。
また、これまでの役割分担の考え方が、
メンバー同士の協力を難しくしていたのではないか。
Eさんは、こうした気づきをもとに、さらにチームに対する関わり方を変えていきました。
まず、会議の進め方を変えました。
「この案件をチームとして進めるためには、どうすればいいと思う?」
メンバーに自ら考えるように求め、メンバーの意思を尊重するようにしました。
その上でさらに、複数メンバーでの共同担当制を導入しました。
すると、少しずつ変化が生まれます。
メンバー同士で相談する場面が増え、
担当外の業務への関与も見られるようになりました。
ある日、担当外の業務で困っていたメンバーに対し、
別のメンバーが自然にサポートする場面がでてくるようになりました。
Eさんの関わり方の変化によって、
チームの関係性そのものが変わり始めたのでした。
意味の再構築のプロセス
このEさんの経験は、マネジメント・スパイラルの実践そのものです。
マネジメント・スパイラルとは、
実践
葛藤
省察
意味づけ
構想
再実践
というプロセスを通じて、マネジメントが深まっていく動的な過程です。
Eさんのケースをこのプロセスに沿って整理すると、より理解しやすくなります。
まずEさんは、「もっと協力してほしい」と働きかけました。
進捗共有を増やし、協力を促し、指示を強めました。
これは最初の「実践」です。
しかし状況は変わりませんでした。
Eさんの中に不満が生まれます。
しかし、この段階ではまだ実践の延長です。
本当の転換点は、その不満が「問い」へと変わったときに訪れます。
「なぜ変わらないのか」
「なぜ協力が生まれないのか」
この問いが「葛藤」です。
Eさんは、ここで自分の関わり方を振り返り始めます。
「メンバーは指示されたことに対応しているだけではないか」
ここで視点が外部から内部へと移ります。
これが「省察」です。
そして、Eさんはさらに重要な気づきに至ります。
「行動は変わっても、関係性は変わっていないのではないか」
ここで、問題の意味が変わります。
表面的には
「メンバーが協力しない」
という問題でした。
しかし、本質的には
「協力が生まれにくい関係になっている」
という問題だったのです。
この転換が「意味づけ」です。
そしてEさんは、新しい方向性を考えます。
「関わり方を変える必要があるのではないか」
対話を増やす
問いかける
共同で仕事を進める
これが「構想」です。
そして、Eさんは実際に関わり方を変えました。
すると、メンバー同士の関係が変わり始めました。
これが「再実践」です。
この一連の流れこそが、マネジメント・スパイラルです。
そして、このプロセスの中で起きたのは、単なる問題解決ではありませんでした。
Eさんの中で起きたのは、「意味の再構築」でした。
当初、Eさんは「メンバーが協力しない」という行動の問題として状況を捉えていました。
しかし、プロセスを通じて、その意味が変化していきます。
メンバーが協力しないのではなく、
協力が生まれにくい関係になっているのではないか。
さらに言えば、
自分の関わり方が、その関係を生み出しているのではないか。
このように、問題の意味が変わったとき、
マネジメントの方向性も変わりました。
マネジメント・スパイラルでは、このように意味の再構築が起こります。
実践の中で葛藤が生まれ、
省察を通じて新しい意味が見出され、
その意味をもとに新しい構想が生まれ、
再び実践へと向かう。
この循環の中で、マネジメントは深まっていきます。
意味の再構築がマネジメントを成長させる
Eさんの変化は、特別な手法によって生まれたものではありませんでした。
問題の意味を問い直し、
関わり方を変え、
試行錯誤を重ねた結果として生まれたものです。
マネジメントの現場では、
同じような問題が繰り返し起こります。
しかし、その問題をどのように意味づけるかによって、
マネジメントの方向性は大きく変わります。
行動の問題として捉えるのか。
関係の問題として捉えるのか。
構造の問題として捉えるのか。
この意味づけの違いが、関わり方の違いを生みます。
そして関わり方の違いが、
チームの関係を変え、
チームの在り方を変えていきます。
マネジメント・スパイラルとは、
意味の再構築を繰り返しながら、
マネジメントが深まっていくプロセスです。
マネジメントの成長とは、
新しい手法を身につけることだけではありません。
目の前の出来事の意味を問い直し、
より本質的な理解へとたどり着くことです。
意味の再構築こそが、
マネジメントを成長させる原動力なのではないでしょうか。
あなたへの問い
あなたがいま直面している問題は、
どのような意味で捉えられているでしょうか。
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