組織をどう捉えるか
私たちは日々「組織」というものの中で生きています。会社、部署、チーム、学校、地域、そして家族。どれも「人が集まり、何らかの目的を果たすための集まり」と言えるでしょう。
一般的に「組織とは何か」と問われれば、「目的を持ち、社会で機能し、役割分担によって成果を生み出す場」と説明されます。
私がこれまで経験的に知っている「組織」とは、まさに仕事をする場でした。そこには組織としての目的があり、私たちはその一部機能・役割を担い、責任を引き受けます。そして、責任を果たした結果として、報酬を得る、組織とはそうした「役割と責任を通じて働く場」だと理解してきました。
けれど、組織は単に「経済活動の仕組み」や「制度」にとどまりません。実際に組織で働くときに私たちが経験するのは、数字や仕組みを超えた、もっと生々しい体験なのです。
存在の在り方が問われる場
組織で働くとき、私たちは単に仕事をこなしているわけではありません。
そこでは、自分の存在のあり方そのものが問われるような経験をすることがあります。
たとえば、プロジェクトがうまく進み、周囲から「ありがとう」と声をかけられたとき、自分の働きが組織の中で意味を持ち、役割を果たしているという手応えを感じます。その瞬間、私たちは「ここにいてよい」「自分は役に立っている」という感覚を得ます。
一方で、思うように成果が出ず、会議の場で自分の意見が受け入れられなかったとき、自分の存在が小さくなったように感じたり、役割を果たせていないという感覚に陥ったりすることもあります。
また、異動や配置換えによって新しい役割を担うことになったとき、期待と不安の入り混じった感覚を抱くこともあります。自分がこの役割を果たせるのか、自分はこの場にふさわしいのかという問いが生まれます。
反対に、これまで担ってきた役割を失うとき、自分の存在の意味が揺らぐように感じることもあります。長く関わってきた仕事やチームから離れるとき、自分の居場所が変わってしまったような感覚を持つこともあるでしょう。
こうした経験は、単なる業務の変化ではありません。
そこでは、役割と他者との関係の中で、「私はどのように存在しているのか」が経験されています。
重要なのは、こうした経験が、組織という場だからこそ生じるという点です。
組織には目的があり、役割があり、他者との関係の中で成果が求められます。だからこそ、私たちは役割を果たせているかどうか、他者に認められているかどうかを通じて、自分の存在のあり方を問い直すことになるのです。
つまり、組織とは単に仕事をする場ではありません。
役割と他者との関係を通じて、自分の存在のあり方そのものが問われる場なのです。
そして、このような経験を重ねていくと、ある問いが浮かび上がってきます。
組織とは、人にとっていったいどのような場なのでしょうか。
組織の本質とは何か
では、こうした経験の背後にある「組織の本質」とは何でしょうか。
組織での経験を振り返ると、そこには単なる仕事の成否を超えた意味が含まれていることに気づきます。
役割を果たせたとき、他者との関係が築かれたとき、私たちは自分の存在が認められていると感じます。逆に、役割を果たせなかったときや関係が断たれたときには、自分の存在のあり方そのものが揺らぎます。
ここで、現象学という考え方が手がかりになります。
現象学とは、私たちが実際に経験していることを丁寧にたどり、その背後にある共通の構造を見出そうとする立場です。
この視点から組織での経験を見直すと、ある共通点が見えてきます。
それは、組織における経験が「未来の可能性」と深く関わっているという点です。
ドイツの哲学者ハイデガー(1889-1976)は、『存在と時間』の中で、人間の存在を「世界に開かれている」ものとして捉えました。これは、人がつねに未来の可能性の中で生きており、「これからどう生きるのか」という問いの中に置かれている存在であるという考え方です。
この視点から組織での経験を見てみると、組織とは、人が自分の将来の可能性を感じたり、感じられなくなったりする場だと言えます。
役割を担い、他者と関係を築きながら仕事に取り組むとき、人は「この先に進んでいける」「ここで成長していける」という将来への感覚を持ちます。
反対に、役割を見失い、関係が断たれるとき、人は「先が見えない」「停滞している」という感覚を持つことになります。
こうした経験は、成功や失敗、評価や孤立、異動や役割の変化など、さまざまな形で現れます。
しかし、そのどれをとっても、役割と他者との関係を通じて、将来の可能性が開かれたり閉ざされたりしている点は共通しています。
つまり、組織とは、役割と他者との関係を通じて、人が自分の将来の可能性に対して開かれたり、閉ざされたりする場であると言えるのです。
将来への可能性としての存在
組織における経験は、一人ひとり異なります。
しかし、こうした経験を振り返ると、そこにはある共通した構造が見えてきます。
役割を担い、他者と関係を築きながら働くとき、人は将来に向かって開かれている感覚を持ちます。
一方で、役割を見失い、関係が断たれるとき、人は将来の可能性を感じられなくなります。
このように、組織とは、役割と他者との関係を通じて、人の存在のあり方が問われる場だと言えるのではないでしょうか。
そして、この視点はキャリアを考える上でも重要な意味を持ちます。
私たちはしばしば、組織の中での成果や評価、役職や待遇といった外面的な要素に目を向けがちです。しかし、より重要なのは、その組織の中で自分が将来に向かって開かれていると感じられているかどうかではないでしょうか。
もし組織の中で将来の可能性を感じられなくなったとき、人は役割をこなすだけの存在になってしまいます。逆に、仕事を通じて将来を感じられるとき、人は自分の生き方そのものに意味を見出すことができます。
組織とは、単に生計を立てる場ではありません。
そこは、人が仕事を通じて自分の将来を感じ、本来的な生き方を模索していく場でもあるのです。
だからこそ、キャリアコンサルタントとして相談者と向き合うとき、成果やスキルだけでなく、その人が組織の中で将来に向かって開かれていると感じているかどうかに目を向けることが重要になります。
相談者が組織の中でどのように存在しているのか。
将来に向かって歩み出そうとしているのか、それとも閉ざされているのか。
この視点を持つことは、キャリアコンサルタントとして相談者に向き合う上で、一考に値するのではないでしょうか。
読者への問い(セルフコーチング)
- あなたにとって、どんな時に「将来を感じられる場」でしょうか?
- 逆に、どんな時に「将来を感じられない場」だと感じるでしょうか?
- その経験から、あなたは組織にどのような意味を見出していますか?
参考文献(一般向け)
- 木田元『現象学入門』 講談社学術文庫
- 田口茂『現象学と組織論』 ナカニシヤ出版